辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  2 確かめに 行ってくるね。

2018.04.18 Wednesday 12:29
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    確かめに 行ってくるね。

     

     優に会うつもりでいた8月の第2土曜日は、相模原のバーベキューがおこなわれ、

    優に会いたいと言えず、今、目の前にある毎日を側で過ごしている人達の流れを止める勇気もなく、

    毎日共に過ごして来たそこには情がある。

    いくら思い合っていても、共に過ごしていなければ情は薄れてくるものだとも

    本当は私の中で、薄々感じて来ている。

    薄情かもしれないけれど、人は人を恋しく思い、

    人の温もりの中で癒される。

     

     側にいるから 温もりを感じる。

     側にいるから 情が生まれる。

     側にいるから その温もりを失うのが怖くなる。

    家族とは そうゆうものから そこにしかない空間を作り出していく。

    そこには その家族ならではの 深い絆や空気を漂わせる。

    その空気は 家族が作った優しい空間。

    家族とは 時に面倒で 時に冷たく 時に温かい。

    しかし、余程のことが無い限り、自分を許して受け止めてくれる人がいることに

    違いはない。

     

     地域連携、訪問看護、ヘルパー指導などで、ここ相模原の住民になりつつある私は、

    「今度のバーベキューは翔太の家の当番だから、綾ちゃんがやるんだねぇ。えらいねぇ」

    などオバちゃん達は勝手に私の予定を決め、私はオバちゃん達からやたら褒められ、

    私は笑顔で「イエイエ、お世話になっているから当然です」

    と、営業スマイルをしてしまった。

    そんな自分を ”可笑な奴だ ”と、笑っている自分がいた。

     

     山田さんからもバーベキューの仕度を頼まれ、断る隙もなく、

    お手伝いをする羽目になり、

    私は、相模原の地域の人に、散々こき使われて、バーベキューの炭は消え、

    バーベキュー大会は終わり主婦や子供達はみんないなくなった。

    そう、ここで終わりの予定だったはずなのに、

    この行事が終わったのに、終わっていない。

     

     家に帰っても家事の任務がない顔を赤くした集団が

    バーベキューのためにセットされた椅子と一体化している。

     

     本当に酔っ払いのおじちゃん達の腰は重い。

    「綾ちゃん、焼酎の氷多目!」

    と海の中に住んでいる魚達が驚くような大きな声で私に向かって叫んでいる。

    (ここで冷たくあしらうと、明日からの仕事に影響する。仕方ない。あのステーションは潰したくない)

     

    私は”セルフサービスですよ!” と言いたいのを我慢した。

    この町の酔っ払いの住民に何を言っても通じない。

    素面でも通じないのだから、通じるようにムキになっても通じない。

    理解できない人に、理解を得ようとしても無駄な精神力と時間だけが生じるだけ。

    ここの住民はマイペースと自己流の中で、自分らしく生きている。

    でも、そこもまた人間味があって良い。

     

     花火大会を、この場所で見ると言って花火大会を待っている。

    別に花火大会など、どうでも良いから、この汗ダクでバーベキューの匂いが染み込んだ体をどうにかしたい。

    一刻も早くお風呂に入りたい。

    小さな抵抗で、コップに残っているビールを音がするように、

    手を高く上げ、コップを高い位置にセットし、

    ジャ〜ジャ〜と砂の上に掛けて見せた。

    だが悲しいことに酔っ払いの集団は、誰も見ていなかった。

     

     仕方なく私は山田さんがやっていた食材の後片付けを手伝った。

    これが終われば お風呂に入れる。

    これが終われば お風呂に入れる。

    そう思って必死に後片付けを終わらせていた。

     

     舞鶴の花火大会は、毎年、七夕の日でもあり、私の誕生日でもある8月7日に、

    行われていたが、いつの間にか第2土曜日になっていた。

     

     山田さんが、浩太に花火を見せたいからと、翔ちゃんの家に電話をしていた。

    山田さんは翔ちゃんの家の用事や翔ちゃんに関わることがあると、

    自らその連絡を入れる。

    他の人の時は「連絡しておいて」と済ませることが多いのに。

     

     山田さんが電話を掛けてから、30分ほどしてから留守をしていた舞が、

    車で舞浩太を連れて来た。

     

     浩太は、花火が始まるまで、砂を食べようとしたり、お洋服を砂まみれにしたり大変だった。

    誰がこの子を誘ったんですか?と山田さんに言いたい位だった。

    ヤンチャな浩太の中に、電池が入っているのなら、

    電池を外したいと思いながら、見ていた。

    そんな浩太の面倒は、

    「先生も早く綾ちゃんと結婚して跡取りを作れ」

    など赤い顔をした集団に絡まれながらも、

    早川君が浩太の面倒を見てくれていた。

     

     舞は私と山田さんと一緒に、片付けを手伝ってくれていた。

     

    一体この暴れん坊は、どちら様のお子様ですか?と舞に言ったら、天使の子よと交わされた。

     

     早川君は、砂をいじったり、投げたり、時には海の中に入ろうとしている浩太に、

    「骨がまだきちんと形成されていないから、這うのが一番良い」

    と浩太に説明して、浩太を砂の上で這わしている。

    そんなこと説明しても、浩太がわかるはずはないのに。

    でも、その光景がおかしくて、片付けている場所から離れ、

    早川君と一緒に、浩太を砂の上ではわせた。

    「上手い」「砂の上は難しいよ」と会話をしながら。

     

     こんな風にだぞ!と言って早川君の洋服も砂まみれだった。

    その時、浩太が口の中に、何かを入れようとしていた。

    夕陽が沈みかけ、船が小さく遠くで波と共に揺らいでいる。

    サンセットの夕陽の灯りが、早川君と浩太を大きく照らしてくれている。

     

     浩太が口に入れようとしたのは、浩太の手より、少し大きめの白い貝がらだった。

    「浩太、こんな物食べたら、お腹痛くなるよ」

    「浩太、これは大切なカルシウムだ。齧ったところで問題ない」

    「舞が見たら、きっと怒ると思うよ」

    「いや、舞も食べてた」

    (・・・・・・なんて親子だ。こんな物を食べるなんて)

    思わず舞の方を見た。

    舞は、久しびりに会った友人達とお喋りをしている。

     

     早川君は、自分の手を、浩太の手にを添えて、貝を浩太の耳に寄せた。

    浩太は、不支持シウに、ジィ〜とその音を聴いていた。

    「波の音で、貝の音が聞こえないのかもしれないね」

    「ボォー」

    浩太が言った。

    「貝って音がなるから、神秘的な感じ」

    「綾、これは貝の音じゃないよ、自分の耳の音」

    「そうなんだ。じゃあ、自分の耳に手を当てれば同じ?」

    「それが、手だと微妙に違うんだよ。貝だから良いんだ」

    浩太は、貝を気に入った様子で、暫く耳に押し当てていた。

    「高い音は、人を興奮させる利点もある。しかし、静かなメロディや音は、癒してくれる」

    声のトーンと同じなんだ。

     

     その時、舞鶴の打ち上げ花火が始まった。

    浩太は慌てて貝を置き、花火の音に驚いて、怖がりながら早川君に抱きついていた。

    そして、耳を抑えていた。

    半べその顔をして、落とした貝を拾って耳に押し当てていた。

    「こうやって、子供は覚えていくんだね」

    「うん。可愛いね」

    「バァ〜ン」

    少し花火の音に慣れたのか、浩太は貝を砂の上においた。

    「バァ〜ン」

    「バァ〜ンじゃなくて、花火」

    「子供は可愛いよね」

    「そうね。やんちゃだけど」

    「綾、そろそろ抗凝固剤始めよう」

    ・・・・・・。

    「もう、始めよう。綾のためにだ」

    「出血するかもしれないし、色々とリスクもあるし」

    「綾、たまには担当医の判断を信じて。優先順位は分かっているはず」

    「・・・・・・わかりました」

    「綾が生きていてくれたら、俺はそれだけで良い」

    そのあと、早川君が何か言ったが、舞の声に消された。

    「浩太ぁ〜なにやってんの?砂だらけになって!」

    舞のトーンは、不快以上の怖いものがある。

    私と早川君は、浩太を抱え、波が打ち寄せている海水で、浩太を裸ん坊にさせ、

    浩太の手と足を洗い、洋服の砂を叩いて落とした。

     

    最後に打ちあげられた花火が、海に浮かんで綺麗だった。

     

    浩太の体を拭いて、洋服を着替えさせていたら、背中から早川君が、言ってくれた。

    「明日から、優はお盆休みだそうだ。隆弘にお前も綾と来るのか?って電話があったそうだ」

    早川君は、綺麗になった浩太を抱き上げた。

    「明日から、3日間有給だ。行って良いよ。綾がそうしたいんなら。でも有給が終わったら戻ってきて」

    「でも、訪問があるし・・・・・・」

    「山田さんの許可をもらってるから」

    「・・・・・・ありがとう。行ってくる」

    「自分の気持ちを 確かめて来れば良い」

    早川君は、浩太を舞の元へ連れて行き、何か話した後、

    一人で歩いて帰って行った。

     

     帰ってから、優に電話をして、明日行くからと伝えると、

    「ここに来るのは、お前だけかつまらんけど、迎えに行くから」

    とだけ言って電話を一方的に切った。

    やっぱり ムカツク!

    やっぱり、優に電話はしない方がいい。

    折角、電話をしたのに、冷た過ぎる。

    他の人には腹が立たないのに、優に対しては怒ってしまう。

    怒っても良いんだ。

    怒っても 許してもらえるのは 優だけかもしれない。

     

     

     

    ねぇ、沙希。

    明日、優に会える。

    優に会えるんだよ。

     

    早川君の優しさが重く、それを阻止できない環境にあり、

    と言うのは言い訳かな。

     

    情に流されやすい自分が悪いんだよね。

     

    自分の気持ちを 確かめに 行って来るね。

     

    明日、優に嫌われませんように。

     

    ねぇ沙希。

    本当は もう自分で 自分の気持ちが分かったいるみたいなの。

     

    相模原を去る勇気を 貰いに行ってくるね。

     

    人を 傷つけない方法を 探してくるね。

     

    誰も みんなの 最後が 花火のように 華やかで ありますように。

    星に願いを。

     

    沙希 お休みなさい。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  1 在宅の薬

    2018.04.17 Tuesday 07:46
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       私のオモチャ

       

       優に会いたいと思いながらも、時間は過ぎていき、私はひたすら相模原の町を、

      自転車で駆け回り、仕事に追われ、優の声も、静かな波の音と次第に消えていった。

       

       翔ちゃんの状態は、夜間のみの人工呼吸器で、安定していた。

      リハビリやマッサージ、入浴、足浴、精神的なフォローのおかげだと思う。

      何よりの薬は浩太のヤンチャな声だった。

       

       浩太は時々、翔ちゃんのベッドにつかまり立ちをしては、そのまま転んでいる。

      人工呼吸器や吸入器を触ろうとする。

       

       だから翔ちゃんが用事がある時に知らせる枕元にあるブザーは、頻回に鳴っていた。

      舞はその度に、浩太をおんぶして、洗濯や家事をする。

       

       翔ちゃんは、それを楽しそうな顔をして見ている。

      男の子は、活発な方が良いと、こんな時、父としての顔になる。

       

       病院にはないお薬が、在宅にはある。

      人間には科学で証明できないエネルギーがある。

      生きたいと思う活力源。

       

       翔ちゃんは、リハビリの時に、車椅子へ乗り、舞と浩太も引率して、外を散歩することもある。

      浩太は、翔ちゃんの膝に乗って、父の細い指を触ったり、歌を唄うこともあるそうで、

      散歩の時の翔ちゃんの顔は、すごく良い顔をしていますよと、理学療法士が教えてくれた。

       

      翔ちゃんの指は、あまり動かない。

       

      けれど、感覚は残っている。

       

      浩太の手の温もりや健気さは伝わっている。

       

       ちなみに浩太の好きな歌は、「アンパンマン」

      唯一、それしか唄わない。

      しかも、言葉はまだ片言だから、

      「ア〜ア〜アゥンパ ア、ア、」と言いたいことはわかるが、

      まるで「ア」の歌だ。

       

       でも、アンパンマンの音楽をかけると、上機嫌で腰をフリフリするから、

      私は、それが面白くて何度もかける。

       

       最近浩太は、私のオモチャに等しい。

      楽器を両手に持たせると、楽しそうに鳴らしたり、

      太鼓をドンドン叩く姿が、おサルさんみたいで、面白い。

       

       だから、椅子に座らせて、お腹の所に立てて、鳴らすように教えた。

      それの姿は、本当に猿に見えてくる。

       

       どうして、舞のおじちゃんに似てしまったのかと、かわいそうになる。

      翔ちゃんに似ればモテたのに残念。

       

       私が犬の絵を見せて「わんわんだよ」と教えていたら、

      「これは犬です!イヌだと教えなさい。子供に赤ちゃん言葉は、必要ない」

      「そうなんですか、それは、知リませんでした。」

      と山田さんが教えてくれた。

      私は、山田さんの教えに対して感心した。

      「どっちでも良いですよ。どうせいつか覚えるんですから」と舞はあっさり切った。

      しかし、赤ちゃん言葉は、あまり使わない方が良いと本にも書いていた。

       

       目で見て、耳で聞いて、手で触り、匂いを嗅ぐ、そしてそれを口に入れて経験する。

      これで良いらしい。

      「マンマとママじゃわからない」

      「ニャンニャン」と教えたものが、ネコであると認識するのも、余分な記憶になり、混乱する。

      「これ触ると痛いよ」と教えても、「痛い」という認識がないのに、説明してもわからない。

      痛いと感じる物に、まず触れさせる。

      針か何かチクリと刺して、痛いと手を引っ込めたら、オッケー。

      「痛い?」と聞くと、これが「イタイ」という危険な言葉だと覚えるらしい。

       

       山田さんが、舞のお姑さんで良いような・・・・・・悪いような。

      私は、少し緊張しながら、そんな休日を過ごしていた。

       

       土曜日は、ヘルパー訪問回数が少なく、日曜日は完全にヘルパー訪問がない。

      だから、翔ちゃんの母になった山田さんがお世話をしてくれる。

       

       山田さんは、舞のおじちゃんにも、赤ちゃん言葉について、同じように説明していた。

      「今度、酒の肴でも食べさせてみようか」と舞のおじちゃんが、冗談でいったら、

      「それは良いですね。お魚を持ってきてください」

      と、聞き間違いをしたのか?舞のおじちゃんに魚を頼んだ。

       

       多分、山田さんは新鮮なお魚は、浩太の離乳食に良いと言いたかったのだろうが、

      舞のおじちゃんも勘違いをしてか、何を思ってか、金魚を買ってきた。

       

       浩太は、金魚を気に入って、面白そうに、じっと見ていた。

      山田さんは、浩太に新鮮なお魚を食べさせたいと思って、舞のお父さんに頼んだのに、

      舞のお父さんは勘違い?をして、金魚を買って来てしまった。

       

       しかし、おじちゃんは、何故か、得意げだった。

      ポジティブであるということは、幸せな人だ。

       

       隆弘は、日曜日の夜勤明けに、日課のように、ここへ寄る。

      そして、仮眠の後、コウタと遊ぶ。7月の真夏日に、外へ連れて行くことは無いが、

      夕暮れ時になると、浩太を抱いて、外へ連れて行くことも多くなった。

       

       浩太を抱いている隆弘に、蚊に刺されるからと、舞が、虫刺され避けのジェルを、

      浩太に塗りながら、隆弘に塗る姿が女らしくて、ドキッとした。

      でも、それも、また、仕方のない情事かもしれない。

      舞の女性の本能を隠し切れていないのを目にしてしまう事がある。

      舞も女で在りたいのだと思う。

      それを悪い気持ちだと否定はしない。

      女にもそんな欲求があったとしても、人間らしくて良い。

       

       早川君が土曜日に来た。

      早川君は、土曜日の午後、診療が終わってから良く来る。

      「今年のバーベキューは、翔太の家が当番だけど、断ろうか?」と、翔ちゃんに相談していた。

      「大変だから、みんな分かってくれるだろうしねぇ〜」

      私は自分の任務が増えるのではないかと思い、バーベキューをやる当番が面倒臭くて、

      この話を軽く流したくて言った。

      「それ、やります」

      しかし、私の前にいた山田さんは速攻で、私の言葉を打ち消した。

      「山田さん、こんなに毎日働いているのに、大丈夫ですか?」

      「大丈夫です。私は翔太の母ですから」

      「山田さん、私は、できませんよ」

      舞はこれ以上の業は出来ないと、強い口調で山田さんに言った。

      山田さんはゆっくり頷いて舞に微笑み掛けた。

      「舞は良いわよ。浩太と翔太のお世話があるから」

      山田さんは、優しい声のトーンで間を置きながら、ゆっくり舞に言った。

      「じゃあ、山田さんお願いします。地域の人にそう返事をしておきます。綾も手伝わせますから」

      早川君は、まるで今ここだ!というようなタイミングで、それを逃さず、

      落ち着きを払った態度で山田さんの顔を見て言った。

      ( ・・・・・・あれ?私?困る。面倒臭いそんなの。断りたい)

       

      ” 私は休日寝ます”と、言おうとしたら、山田さんと目があった。

      私は自分の目が泳いでいるのが自分でわかった。

      私の迷いの隙を山田さんは見逃さないような感じで、鋭い視線で見ている。

      迷いの隙は消されてしまった。

      ここは ”イエス ”しか無い。

      「はい。お手伝いします」

      そう答えてしまった。

       

       ねぇ、沙希。

      今年の私の誕生日は、優のところへ行って、

      一緒に天の川を見ようと思っていたんだけど、

       

      これも運命かなぁ〜って思うよ。

       

      来年の誕生日には、優と星が見れますように。

       

      星に願いを込めて。おやすみなさい。

       

       

       

       

       

       

       

       

      傘の中

      2018.04.13 Friday 18:38
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        貴方がさしたる傘から

        私の傘に雫が伝わる音さえも

        愛しく想い 掌の中にのせた時

        貴方と目があう傘の中

        誰にも見られぬ傘2つ

        恋の秘所地で 影一つ

        category:- | by:優菜笑comments(0)trackbacks(0)

        辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−19 想いを 残したまま

        2018.04.08 Sunday 18:15
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          第10勝 訪問看護 2−18 続編  想いを 残したまま

           

            浩太の夜泣きが治り、山田さんの母としての夜間の身守りは必要となくなり、

          山田さんは、昼間のヘルパー教育の時にだけ、翔ちゃんに会いにくるようになった。

          それを寂しいと思っている山田さんの横顔が、

          私には切なく感じる。

          でも、私にはどうしようもないことだから。

          山田さんは、素敵な女性だけど、翔ちゃんは舞の旦那さん。

          それは変えられない運命だから。

          翔ちゃんが選んだのは舞だから。

          山田さんは翔ちゃんのことを異性として受け止めなければ、

          辛くはないのに。

          誰か他の人を好きになれば良いのに、自分に嘘をつけない生き方も

          それも山田さんらしさかもしれない。

           

           いつか映画のワンシィーンの中で「どうして私じゃ駄目なの?」と 

          男性に抱きついて、すがりつくように泣いている女性に、

          「お前は俺が妻を愛している事を教えてくれた」

          そうその男性が言っていたのを見て、凄く格好良いと感動した。

          曖昧な優しさは返って人を傷つけてしまう。

          ひと時の欲求のために、それでも良いと思う人もいるかもしれないけれど、

          私は曖昧な優しさは、本当の優しさではないような気がする。

           

           同じような場面で、

          「出会う順番が違っただけだよ」と誰かが言っていた。

          それも確かにそうかもしれない。

          でも、それも「運命」ではないかと思う。

           

           人を引き寄せる力があれば、好意を持った人のことを思っていれば、

          不思議と思いが通じ恋愛感情を抱いてもらうことがある。

          でも、運命には逆らえない。

          運命とは、不思議なものだと思う。

           

           そしてまた、思いとは不思議なものだとも思う。

          人を好きでいれば、人から可愛がられるし、人の悪口ばかりいう人は、

          人から嫌われる。

          想いは通じるものであると私は想う。

           

           しかし、残園なことに、人間関係には思いがあっても通じない時も多々ある。

           

           よく「あの人とは馬が合わない」と耳にする。

          それは、個性の問題だから仕方ない。

          丸い円の中に、四角い箱をピッタリはめることは出来ない。

           

          人間には気質的に、思考タイプと感情タイプがあり、

          アイデアや発想で行動する者と、しっかり計画して実行したい者がいる。

          それにプラスして、コミニュケーションの取り方。

          そして、何に価値観を置いているかで、気があうか合わないかが変わってくる。

           

           相違している性格や気質に、無理に合わせなくて良いと思う。

          合わないものは合わない。

          「触れない」「関わらない」のも一つの方法だと思う。

          ただ、合わない性格の人を批判しないことが大切ではないかと思う。

          人それぞれの考えは、人それぞれであり間違いではない。

          自分の考えだけが正しいと思う方が間違いである。

          人を受け入れる器は 大きい方が良い。

          そのほうが自分も楽になる。

           

           

                  ♦

           

           

           

           翔ちゃんの状態は、夜間のみ人工呼吸器を使用し、安定しているけれど、

          痰のつまりやマスクのズレが心配で、舞は、翔ちゃんのベッドから、

          少し離れたところに、舞と浩太が寝るベッドを並べた。

           

           夜間、アラームが鳴った時にだけ、舞が起きて、マスクの調整をしたり、痰を吸引する。

          排尿障害はなかったが、介護負担と以前、尿路感染になった事がある為、尿カテーテルを留置した。

           

           私は、仕事を終え、食事を作り、浩太と奮闘している舞を見ながら、食事を摂ってから、

          舞が浩太とお風呂に入っている間、翔ちゃんの状態を見守るために部屋へ行くのが日課となっていた。

           

           翔ちゃんの足浴をしながら、今日あった面白い出来事や舞や浩太のことを、

          翔ちゃんに聞いてもらう。

           

          翔ちゃんの足も手も、細く硬く、指はエンピツのようになってきた。

          毎日、足浴をしていても分かる程、それを、私の手に伝えてくる。 

           

           足浴をしている時、翔ちゃんにパソコンを打ってもらう様にしている。

          そうしないと、中々、パソコンを打たなくなっていた。

           

          「翔ちゃん、この間、優がきたんだね。言いそびれてた」

          翔ちゃんは、黙っていた。

          「趣味の悪い手袋が入っていた」

          何となく、笑った表情をした。

          「でも、雪だるまのなかに、メモが入っていた。名無しのね」

          「優は綾のこと待ってるよ」

          翔ちゃんのパソコンに打たれた文字に、本当にそうなら良いのにと言いたいのを我慢した。

          期待はしない方がいい。

          真実が違っていたら、余計悲しくなる。

           もし、優が幼馴染として ”頑張れよ” という励ましの思いだけだとしたのなら、

          私は、また傷ついてしまう。

          もう虚しいあの寂しさは、味わいたくない。

          ゴミ袋の中に残飯と一緒に紛れて捨てられたようなあの衝撃。

          思い出したくもない。

          「自信がないの」

          翔ちゃんの足を、足浴バケツから出して丁寧に拭いて、

          「皮膚保護」と「乾燥防止」「褥瘡予防」「血行促進」

          目的にて保湿剤たっぷり塗った。

          「みんなそうだよ」

          翔ちゃんは軽い感じのタッチで、パソコンのキーを打った。

          「うん」

          翔ちゃんの部屋の中が、シィーンと静まり返った。

           

          私の本当の気持ちを翔ちゃんに言ってしまいそうで怖くなった。

           

           浩太に「早く洋服着なさい。風邪ひくよ」お風呂場から聞こえてくる舞の声。

          その声を聞いて、楽しそうな表情に変わった翔ちゃん。

          「お家って、良いよね」

          翔ちゃんは、瞼をパイっと1回閉じて、合図した。

          「あらっ、随分楽しそうな顔をして、どうかしたの?秘密の話?」

          濡れた髪にバスタオルを巻いただけの舞が、浩太を抱きかかえたまま、お風呂からあがってきた。

          「そんなんじゃあ無いよ〜。優が来た時の事言いそびれてたから報告」

          翔ちゃんは申し訳なさそうな表情をしている。

          翔ちゃんが悪いわけではないのに。

          「ダハッハハハハハハ、あぁ〜あのね、何だか渡し辛くて、預かりものがあるの」

          舞は何かを誤魔化すとき、いつも大袈裟に笑う。

          「何?」

          「それ渡すと、綾が・・・・・・また思い出して、辛くなるかと思って・・・・・・ごめん」

          「何を?」

          「早川君と折角、仲良くしているのに・・・・・・それに綾がいないと、ご飯作らなきゃならないしね」

          舞は、しどろもどろに曖昧な感じで、話している。

          「ダハハッハハハ。あぁ〜ごめん」

          (ごめん?何だろう。)

           

          翔ちゃんが、パソコンで「渡して」と打った。

          「綾が居なくなる気がして・・・・・・寂しいじゃん」

          「何で?私は、いなくなんないよ。

          「よかった」

           

          以前、翔ちゃんの部屋だった部屋には、舞と浩太の荷物を置いてある。

          その部屋から、舞は、白い棚を運んで着た。

           

          「誰からか、分かるでしょ。これステーションに置いてだって。あぁ〜後、これも」

          茶色いフクロウと白いフクロウが2羽。

           

          ・・・・・・優。

           

          私は、その2羽のフクロウを両手の上に乗せた。

          浩太が、珍しそうに、それを見ていた。

          「浩太、フクロウだよ。幸せを運んでくれるんだって」

          「優って、こういう迷信信じるんだ。意外。私は信じないけどね。・・・・・・黙っていてごめん」

          舞はまた申し訳なさそうに私に頭を下げている。

          舞が悪いのではないのに。

          誰のせいでもない。

           

          強いていうなら、私と優のことで気を使わせた私の気持ちがはっきりしていないからだ。

           

          私は、浩太なら自分の誤魔化している感情のずるさを許してもらう気がして、

          浩太にフクロウを見せた。

           

           浩太は、ガシッと鷲掴みして、フクロウの頭をガブッと噛んだ。

          「あぁ〜、浩太!ダメ!これはダメ!」

          舞は、その様子を見て大笑いしている。

          翔ちゃんも、浩太の方に目を向けて、顔が綻んでいる。

          2人とも、笑っている場合じゃない。

          なんて親子だ。

          「それ、ちゃんとステーションに飾ってね。綾の部屋にあったら、また浩太から噛まれるよ」

          「そうね。ありがとう」

          「ありがとうは、私にじゃないでしょ」

          「うん。ありがとう。おやすみなさい」

           

           私は、棚をスロープから滑らせて、フクロウだけ抱えて、自分の部屋へ戻った。

          時間は、もう22時。また、遅い時間。

          今、もう寝ているかもしれない。でも、起きているかもしれない。

          でも、起きているか、寝ているかは、わからない。

           

          優が起きて居ます様に。

          優が寝て居ます様に。

          優が電話に出てくれます様に。

          優が電話に出ない様に。

           

          電話をした方が良いのか、迷った。

          緊張して、電話を持つ手が震える。

          目を閉じて、深呼吸をした。

          そして、心の中で、木魚を叩いた。

           

          トン・トン・トン・トン。

          トン・トン・トン・トン。

           

          このリズムを取ると、心が落ち着く。

           

           アロマオイルのポットに、ローズマリー・シネオールを入れた。

          ベッドの引き出しに置いているメモを握りしめたまま、迷った。

          ローズマリーの香りが、私を優しく誘った。

           

           とりあえず、今はアドレスだけ登録しておこう。

          メモに書いてある汚い数字を、携帯電話に並べた。

           

          本当にこの番号合っているのかなぁ。

          殴り書きみたいだし。汚い字。

           

           アドレスに登録しようとしたのに、手が震えて、発信を押してしまった。

          アッ!押した。やばい切ろう。

          「もしもし」電話から、声がした。

          私は、恐々とその声が聞こえてく物を、耳に押し当てた。

          暫く、沈黙した時間が流れた。

          心臓がバクバクして、緊張して呼吸がうまく出来なくなった。

          電話の向こうにいる優に、私の心臓の音が聞こえているのでは無いかと心配になる程。

          もう一度、深呼吸をした。

          ローズマリーの香りが漂い、鼻からスゥーと入ってきて、甘く優しい香りに感じた。

           

          「・・・・・・綾?」

           

          優の声が聞こえる。優なんだ。

          「・・・・・・うん」

          「元気か?元気だな。翔太はどうだ?変わらないか?みんな元気か?今、俺、島にいるんだ」

          相変わらず、良く喋べる。

          この電話をかけるのに、どれだけ勇気が要ったと思ってんのよ。

          「今度こっちに来い。いや、まだ来るな。もう少し、ここに馴染んでから来い」

          優の声は、楽しそうだった。

          弾んでいて、嬉しそうだった。

          「わかった。行かない」

          「夏、夏になったら来い。みんなで」

          「ねぇ〜、優・・・・・・どうして」

          優は、黙り込み静かになった。

          「翔太が、自分の体を差し出してるの見たら・・・・・・逃げた。俺はただの凡人だろ」

          「フゥ〜ン」

          「綾も、ちゃんと見てやれよ。早川と。翔太の事頼むな」

          「フゥ〜ン、ケチ。嘘つき。だって優迎えに来るって言ったじゃん」

          「俺ガァ?言ったかぁ?」

          「うん。・・・・・・夢の中で」

          「アホっ!知るかそんなもん」

          「わかった」

          「綾は、早川病院の院長夫人になるんだぞ。幸せだなぁ〜」

          「そうね。幸せかも」

          「いいんだ。それでいいんだ」

          「・・・・・・優、私の心の中知らないくせに言わないでよ。私の幸せは自分で決める」

          「・・・・・・そうだな。ごめん。じゃあ、幸せになれるように自分で決めろ」

          「うん。・・・・・・優、もう待てないかもしれない」

          「・・・・・・わかった。おやすみ」

          そう言って、優はプツッと電話を切った。

           

          多分、優は勘違いをしている。

          優のことを待てないと言いたかったんじゃない。

           

          優と一緒にいられないのが寂しくて、側に居られないのが淋しくて、

          優に会いたいのを我慢するのを待てない。

           

          私は、ただ、一言だけ言いたかったのに。

           

          電話なんか  しなければ良かった。

          ずっと、思いを締め込んで大事にしてきたのに、勘違いされたまま、終わった。

           

           

           

          ねぇ、沙希。

           

          お願いだから、優に伝えて。

           


          綾は、優を待っているよって。

           

          いつも側にいないのに、声を聞いただけで、胸が熱くなる。

           

          優はずるいよ。 

          私の心に 好きだという想いを 刻んだまま 

          忘れようとしても 優への想いを 残したまま

           

          私を ひとりぼっちに させている。

           

          優に 会いたい。

           

          優と私だけが知っているフクロウの思いは

          私と優だけのものなのに。

           

          今は その思い出しか・・・・・・それしかないような、

          それ以上を望めば、優のやりたい事を、中途半端に終わらせることになる。

           

          どんな形が 本当の愛情なのか わからない。

           

          優にとって 一番 良い愛情の形は どんなものなんだろう。

           

          ねぇ沙希。それを私に 教えて。

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

           

          辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−18 愛し方の選択

          2018.03.20 Tuesday 23:27
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            第10章 訪問看護 2−17続編 愛し方の選択

             

             5月になり、春風が心地よく感じながらの自転車訪問は、最高に楽しい。

            他のスタッフには内緒で、どこかで、わたし一人で休憩(サボり)でもしたいと思いながら、

            休憩する暇もなく、毎日その日を真面目に過ごして1日が終わる。

             

             相模原の海沿いにある舞の家の近くには、藤の花が沢山咲いている所があり、

            ちょと座って眺めていたら、蜜蜂の大群がいて逃げた。

            藤の花は綺麗だけれど、鉢に刺されるのはゴメンだ。

             

             わたしは 優の雪だるまから 自尊心にかられ 自分が汚い薄汚れたドブネズミに思え、

            早川先生との距離を 少し置いていた。

             

             そんな私の感情と全く関係なく、翔ちゃんのために、

            5月、訪問看護ステーションが設立されたあの日から、丁度2年目を迎え、

            早川君(早川先生)が、町に唯一、1軒しかない小料理屋で、

            2周年記念の祝賀会を開いてくれた。

             

             早川病院の関係者や地域包括介護支援のヘルパーさん達や訪問入浴の方、

            ケアマネジャーなど、多くの方が参加してくれた。

             

             そして、そこに、翔ちゃんも来てくれた。

            翔ちゃんは、みんなの前に行くのを嫌がるかと思ったけど、

            介護タクシーをケアマネジャーに依頼していた。

            舞も参加してくれた。

             山田さんは、舞を参加させた。

            舞は、浩太がいるから無理ですと断ったが、山田さんから、

            「浩太に、父親の違う姿を見せてあげておいて」と言われたらしい。

             

            舞は、「山田さんから言われたから仕方ない。だから行くわ!」と、

            渋々行くような顔で、ブツブツ文句を言っていた。

             その割には、浩太を他の人が、代わる代わる代わる代わる見てくれていたからか、

            日頃のストレス発散か、祝賀会で楽しそうに、はしゃいでいた。

            そんな舞を見て、

            「これも大事な介護者の過ごし方」と、山田さんが、ボソッと言った。

             

             山田さんは、日本酒でもワインでも何でも呑めるし、酔わない。

            この人が、ヒステリックな感情を露わにしたのを見たことがない。

            見たい気もするが、それも怖い。

             

             わたしもそうだけれど、ヒステリックな感情を表す出す人の方が、

            もしかしたら、正直な感情を素直に出す人なのではないかと思う。

             

             わたしや山田さんは、もしかしたら、ヒステリックな感情を持っている人からすれば、

            「冷静な人」という言葉の中に「冷たい人間」と思われているのかもしれない。

            わたしは、時々そんな風に思う。

            自分の考えだけが正しいとは思わない。

            人の受け止め方は人それぞれ違うと。

            だから、ヒステリックな感情も否定しない。

             

             山田さんは、かなりお酒が入っていたのか、私に絡んできた。

            「浩太の夜泣きがなくなったから、もう大丈夫ね」

            「そうですね。ありがとうございました。ゆっくりお休みください」

            「あらっ、私の役目はもう終わりなの?淋しい」

            「翔ちゃんは、不安かもしれませんが・・・・・・山田さんには感謝していると思います」

            「・・・・・・そう?そうだったら、嬉しいわ」

            グレーの礼服を装った山田さんは、いつもより、一段と綺麗だった。

            お酒のせいでなのか、色気さえ感じる。

             

             祝賀会が終わった後、お酒を余り飲まない私は、そのまま山田さんを乗せて、翔ちゃんの家に戻った。

            山田さんの着替えや小物は、カンファレンス室に置いてある。

             

            舞は、久しぶりに会った友人の家へ浩太を連れて遊びに行った。

             

            私は、お風呂に入った後、翔ちゃんの様子を見に、何にも考えないで、2階へ上がった。

             

             山田さんが、翔ちゃんの足浴バケツと、顔を拭くためのお湯を入れたバケツを用意したからだろうか、

            珍しくドアが半開きになっていた。

             

            山田さんは、翔ちゃんのマスクを外して、顔を拭いていた。

             

            山田さんの耳元にかかっていた前髪が、ひらりと落ち顔を隠した。

             

             その髪が翔ちゃんの頬に当たる程、顔を近づけていた。

            翔ちゃんの頬に当たった前髪を、ごめんねと言いながら、耳にかけた。

             

            その時の目は、キラキラしていて、今にも翔ちゃんの唇に触れそうな色っぽい唇になっていた。

            私は、足音も立てず、その場を後にした。

             

             部屋に戻って天窓を見上げた。

            今日は曇りで星は見えない。

             

             山田さんは、看護師の免許を早川病院で働きながら取得した。

            それから、ずっと早川病院で働いてきた。

            翔ちゃんと出会ったのは、山田さんが、26歳の頃。

            人のことには関心がないけれど、こんな愛情もあるんだなぁ。

            私は、これを誰かにいうような性格は持っていないし、言うつもりもない。

             

            ただ・・・・・・切ないだろうなぁ。

             

             お酒が入っていたからだろうか。

            実らないとわかっていて それを伝えられず 恋しく思う一途な想いは。

            伝えた人より 思う気持ちは 深いのかもしれない。

            どれほど辛いのだろうか。

            20年も・・・・・・ずっと・・・・・・胸にしまいこんだ想いは。

            溢れて 出てきそうになっても 仕舞い込まなければならない想い。

            計り知れないから 儚いから なお一層 想いが深くなっているのかもしれない。

            実らないから ただ思うから 純粋だから 綺麗な愛情で満たされているのかもしれない。

            人は 心が満たされたい欲求を欲する。

            山田さんは 翔ちゃんを ただひたすら 一途に 愛している。

            それが 山田さんの心を満たしているのなら、それが山田さんの幸せかもしれない。

            そう・・・・・・だったら良いけれど。

             

             ・・・・・・優。

            優は 今頃 何をしているのだろうか。

            笑って暮らしているのだろうか。

             

             人を好きでいる。

            それで 心が満たされるならば

            わたしは 優を好きでいたい。

            でも・・・・・・ もう無理かもしれない。

            でも、どうしても 優に会いたい。

             

            わたしは やっぱり 優でなければ 駄目なんだ。

            他の人では 駄目なの。

            山田さんも 同じだったんだろう。

             

            わたしは いまでも あなたのことを 愛しています。

             

            私は、ベッドの引き出しにしまい込んだ優の携帯電話番号を眺めた。

             

            もう、時計は23時になっていた。

             

            もう遅い。今日は諦めよう。

            明日になれば また 朝が来て 優への思いを

            忘れるかもしれない。

             

            思えば 思うほど 優の香りに触れたくなるから。

             

            わたしは この町を捨てられない。

             

            沢山の人の 命を 抱えているから。

             

            今日は、バラのアロマオイルで眠ろう。

             

             ねぇ、沙希。

             

            人を想う恋心は、どこか延命の時に味わう感傷に似ている気がする。

             

            苦しんでいる姿を見ていても、生きていてほしいと想うのか。

             

            苦しむのが可哀想だからと、想うののか。

             

            幸せであって欲しいのか、

             

            自分だけを必要とするのか、

             

            辛いから 好きな人の顔を見たく無いのか、

             

            辛くても その人の側にいたいのか。

             

            山田さんも、きっと、その感傷の中で そばにいるんだね。

             

            切ないね。

             

            辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−16 紙飛行機の想い

            2018.03.20 Tuesday 18:49
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                紙飛行機の想い

                                 

               春雪溶けて、山笑う 和かな春風吹き 

               

               土筆の芽が 出ようか迷う頃 忘れてくれるなと 空からの白き贈り物

               

               愛しき人の 足跡を 消えぬよう 心の中に 呑みほそうかな

               

               3月になり、もう雪も降らないだろうと、油断していたが、甘かった。

              今日は、朝から、雪が積もり、私は、例のごとく、自転車に訪問用のカバンと、

              着替えやタオルを持って、自転車を押しながら、仕事へ行った。

               

               山田さんは、毎日、寝ていない感じだけど、ヘルパーさんへの教育は、怠ることなく継続されていた。

              山田さんは、訪問リハビリや訪問看護の際、ヘルパー同行を試みて、やはり、

              情報の共有が必要であると考え、訪問入浴の方にも、同行を依頼した。

               

               担当者会議の際、情報共有は、口頭上、紙面上のみ行われる。

              しかし、医療の場合は、ケアマネジャーが関与していなければ、担当者会議はあまり行われない。

               それに、人工呼吸器の管理を、現場で指導することは、実際あまり無い。

              山田さんならではだったと思う。

              早川病院での永い年月と、地域の信頼があり、訪問入浴の方の同行を可能にした。

               

               今後、医療もケアマネジャーが、統計計算を行うように、成るかもしれない。

              ケアマネジャーの方の負担を考えると、大変申し訳ないと思うけど、

              医療もできることなら、ケアマネジャーが中心となって、舵を取って頂きたいと思う。

               

              そうすれば、情報の共有もしやすく成る。

              これは、個人的な意見だけど。

               

               翔ちゃんは、人工呼吸器と酸素を使用するようになり、

              1日3回、3時間のみのヘルパー援助だったけれど、身体的援助、生活援助で、5時間使用でき、

              翔ちゃんの部屋の掃除、翔ちゃんの洗濯物、器具の消毒、経管栄養等のサービスが受けられるようになった。

              この難病身体障害枠併用でのサービス配分は、ケアマネジャーの力量で、大きく変わる。

               

               舞は、山田さんの負担を気遣い、せめて栄養だけは、バランスの良いものを考えなければと、

              勉強して、食事担当の私に、食事メニューを渡してくる。

              舞もたまには、作ってよと、言っても、綾の将来の為だからと、交わされた。

               

               翔ちゃんは、夜間、人工呼吸器を使用するようになり、状態は変わることなく過ごしていた。

              今まで、興味がなかったテレビを観るようになり、テレビ番組にも詳しい。

               

               訪問中、近所のおばちゃんが、

              「綾ちゃん、美味しい芋を蒸したから、持って行きんしゃい」と手渡された。

              「まだ、訪問中だから、また、今度」と言ったが、

              「そげん、遠慮せんでよか!」と言って自転車に積み込まれた。 

              ・・・・・・イヤ、遠慮はしていないと思いつつ、仕事が終わってから、

              翔ちゃんの家がある高台の坂道を、重くなった自転車を押して、翔ちゃんの家へ辿り着いた。

               

               翔ちゃんの家の入り口に、車のタイヤの跡が、何本も付いている。

              誰かきたのかなぁと思いながら、玄関の脇に自転車を置いた。

              重い荷物を抱え、玄関のドアを開けようとしたら、そこには、あたたかい物が置かれていた。

              ・・・・・・もしかして。

               

              寒い冬の雪降る灰色の空の下、雪を被って、待っていてくれたのは、

              大きな雪だるまと、小さな雪だるま 2つ仲良く。

               

              小さな雪だるまは、尻尾が生えている。

              ・・・・・・意地悪ね。

               

              大きな雪だるまには、ポケットが付いている。

               

              子供の頃から思っていたけど、結構、物造りはうまいよね。

              大きな雪だるまのポケットの中に、舞鶴商店街にある雑貨屋さんの可愛い袋が入っていた。

               

              袋の中には、手袋がビニール袋に包まれて入っていた。

              もうすぐ春が来るのに。いつもの思いつきね。

              それに、この手袋、わたしの趣味じゃないよ。

               

              その手袋が入っていた雑貨屋さんの袋の中に、紙飛行機が入っていた。

              これじゃあ、すぐ落ちちゃうよ。 

              素っ気ないなぁ〜この紙飛行機。

               

              けれど、わたしは、その素っ気ない紙飛行機を、両手で包み込んだ。

               

              紙飛行機の羽の所に書かれたメモ。

               

              名無しの携帯電話番号と行った事がない姫島の住所。

              メモには それだけしか書かれていない。

               

              もっとロマンチックな言葉を 並べてくれれば良いのに。

               

              ” 元気か? お前に会いたい” とか

              ”もう一度やり直そう”とか。

               

              でも多分、優はこう言うだろうな。

               

              ”これは、これで、勇気がいったんだぞ”って。

               

              優・・・・・・わかるよ。                       

              優が これを書いてくれた想い。

               

              わかるよ。

               

              優・・・・・・ありがとう。

               

              わたしは、それを握りしめ、大きな雪だるまに抱きついた。

              ・・・・・・優。

               

              大きな雪だるまの顔が、グジャグジャになる程、頬に顔を寄せた。

               

              ・・・・・・会いたい。

               

              贅沢な暮らしも、高級な洋服もいらない。

              どんなに有名な人からの贈り物であっても、そんな物要らない。

               

              わたしは、ただ これだけいい。

               

              忘れかけている時に、わたしの心のドアを、無防備にノックして来る。

               

              だから、いつまでも 恋しく想う。

               

              寒い雪が 舞い散る夜。

               

              空から落ちてくる綺麗な雪に包まれながら

               大きな雪だるまは わたしを あたためてくれた。

               

              高校生の頃 よく2人並んで 汽車を待っていたよね。

               

              優が好きな 美味しいお芋貰ったよ。

               

              これを、優と半分ずつ 食べる事が できたら 良いのにね。

               

               ねぇ沙希。

              わたしは 早川君との あの日のことを

               

              この雪のように 消し去ることが 出来たらいいのに。

               

              許してもらえるだろうか。

               

              わたしの犯した大きな間違いを。

               

              もう 元へは戻れないのだろうか。

               

               

              沙希

              もしも 神様がいるのなら お願い 。

               

              早川君とわたしの あの日の記憶を 

               

              この雪と共に 消し去ってくれるよう

               

              神様に伝えて。

               

              沙希 お願いします。

               

              わたしの心は 濁り水の中で 溺れそうなの。

               

              わたしは 優のところへ 行きたい。

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

               

              辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−15 医者は患者様の命を守る義務がある

              2018.03.17 Saturday 14:11
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                第10章 訪問看護 2−14 続編 医者は患者様の命を守る義務がある

                 

                 2月 また今年も、私達、在宅訪問関係者達は、

                雪道の中、自転車を押してでも、訪問している。

                自転車に、スノータイヤでもついていれば良いんだけど、そんなことも言っていられない。

                 

                 大変だなぁ〜と思いながらも、利用者さんの家へ訪問すれば、忘れてしまう。

                 

                 翔ちゃんは、ALSだと診断を受けていたことを、みんなには黙っていたが、

                去年の2月に、優のお見合い話があった時、思わず、私に言ってしまったのかもしれない。

                隆弘は、翔ちゃんの診断名を、他人に言ったりはしない人だから、みんな知らなかった。

                 

                 あれから、丁度、1年の歳月が流れていた。

                山田さんから、夜間観てもらうようになり、山田さんが、翔ちゃんの睡眠時無呼吸に気づいた。

                 

                 そして、家族負担軽減も兼ねて、2週間入院した。

                 

                検査結果やトータル的な面から見て、早川先生の管理の元、現在、夜間のみ人工呼吸器を開始した。

                 

                 翔ちゃんは、マスクが嫌で、顔を少しずつ動かして見たり、やんちゃ坊主みたいな事をして、

                山田さんから、怒られていた。

                人工呼吸器は、マスクの位置が少しでもずれると、漏れている事をアラームが知らせる。

                 

                 夜間の酸素飽和度は、92% 無呼吸時には、86%に低下する。

                痰は少ないが、室内乾燥している冬は、朝方、粘調性の白色痰を少量あり。

                在宅酸素を導入し、夜間のみ酸素1ℓ使用。

                 

                 翔ちゃんの場合、安全策として、夜間のみ人工呼吸器を使用しているので、日中に、

                人工呼吸器の管理方法を、訪問看護ステーションの看護師、理学療法士、

                そして、早川病院の希望者も学んだ。

                 

                 早川病院には、呼吸器のリハビリを、アメリカで学んだ呼吸療法認定理学療法士がいる。

                実際、常時、人工呼吸器を使用している利用者さんの管理は、早川先生が行なっている。

                医師の指示の元ではありながらも、状態を明確に見極める優れた理学療法士だった。

                 

                 その理学療法士は、呼吸法、補助呼吸リハビリなどを中心に指導した。
                病院では、実際に人工呼吸器を使用をしている入院患者さんの前で、

                研修をじっくり行うことは、患者さんが不安になるので難しい。

                呼吸器疾患というと、どうしても、胸部のみ観てしまう。

                しかし、アメリカでは、下肢の筋力アップ、リラクゼーションの他、

                歩行や外出、端座位を、優先するとのことだった。

                 

                 山田さんは、翔ちゃんが、常時、人工呼吸器を使用し、気管切開をする日が近いと判断し、

                ヘルパーへの指導を強化して行った。

                人工呼吸器の対応と指導、吸引指導、経管栄養指導、酸素飽和度の図り方、

                呼吸苦や痰が詰まったときの対応、安楽な体位、全身状態観察点。緊急時の対応や連携指導、

                内服管理、感染対策や異常の早期発見指導、地震や停電の際の対応。器具の充電チエック。

                 

                利用者様のメンタルケア、下肢の保温、気分転換指導を行った。

                 

                 人工呼吸器装置を使用している利用者さんは、自ら訴えない。だから、観察が重要となる。

                ケアを行う際、口腔ケア、顔拭き、吸引をするタイミング。

                吸引時には、マスクを外して行わなければ成らないため、

                人工呼吸器の安定している波形を、認識しておく必要性がある。

                 

                 安定している呼吸の時に、本人に声をかけながら、マスクを片方だけ外し、

                本人の呼吸が同じリズムで整っている時に、吸気時に外し、5秒間位を目安に吸引する。

                5秒を目安にしても、実際の時間は10秒以上かかっている。

                その際、あまり引けなかったとしても、一旦時間をおいて、吸引する。

                 

                 鼻からの吸引時→ 鼻の入り口には、鼻血が出やすい箇所があるので、なるべくそこに当たらないように、

                人差し指を、鼻血が出やすい箇所において吸引すると無難。

                 

                 そして、鼻血が出やすい箇所に人指し指を置いたまま、吸引チューブを、

                這わせるように親指で滑らせていく。

                 

                 鼻の外から、内側へ入れていく。鼻の中は、空洞になっているし、繋がっている。

                何度も、上下に動かさない。痛いだけである。

                チューブを鼻の中に入れていくと、少し引ける場所に到達すれば、そこに痰が溜まっているので、

                その場所の少し奥に、そのままチューブを入れれば、沢山溜まっている場所にヒットする。

                それを、吸引チューブで回収すれば良い。

                 

                 口腔内吸引→ 歯科受診した際、歯科助手は、舌の端側に吸引チューブを入れて、吸引する。

                それと同じ方法をとる。

                舌の真ん中に入れると、舌の根元に当たる。

                舌の根元部分は、異物が口腔内に入ると、飲み込んではいけないものが、入ってきた!

                                   これは、吐き出さないと危ない!

                と、危険を察知して、嘔吐反射が起こる。

                 

                 処置の際に、必要なのは、『患者様の体の構造に合わせる』

                強引にしない。

                 

                例えていうならば、ほうずきの風船を作った事がある人は、わかると思うが、

                ほうずきのタネを取るとき、破れないような状態になった時、そぅ〜と抜く。

                これが大切。

                 

                  隆弘は、相変わらず、自分の病院の勤務の後、金曜日から、日曜日の朝まで当直をしている。

                そのまま、翔ちゃんの様子が気になってか、翔ちゃんの家で仮眠を取る。

                 

                 隆弘のことは、いつも、「ついでの隆弘」と私は、心の中で、思っていた。

                でも、ついでの隆弘は、いつも、誰かを安全に守ってくれる人だった。

                隆弘は、医者に成るべくして、なった人だと思う。

                医者は、患者様の命を守る義務がある。

                 

                 そんな隆弘は、自分が側に付いていて、産まれてきた子を、守りたいと思ってか、

                仮眠を少し取ると、浩太と夕方まで遊んでいた。

                 

                ねぇ、沙希。

                浩太のお食い初めの時、山田さんが、浩太のお食い初めの準備をしてくれたよ。

                 

                舞のおじちゃんは、お酒を飲んで上機嫌でいたけど、

                途中、この寒い2月の冬空の下、ベランダに出て、一人佇んでいた。

                 

                舞と浩太を心配するおじちゃんの本心は、

                 

                私達には、計り知れないものが あるのかもしれないね。

                 

                 

                 

                 

                辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−14 シャボン玉のように

                2018.03.17 Saturday 12:24
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                  第10章 2−13続編    シャボン玉のように

                   

                   舞と可愛い天使が、退院してきた。

                  舞は、入院中、事あるごとに、翔ちゃんに子供の写真と様子を送り、

                  翔ちゃんは、毎日、それを見るのが、日課になっていた。

                   

                   いよいよ、天使が帰ってきたので、

                  翔ちゃんが、さぞかし笑いの絶えない時間が過ごせる事だろうと、

                  私は楽しみにしていた。

                   

                  だが、夜泣きの煩さに、私は驚いた。

                  こんなに子供が泣くとは・・・・・・思わなかった。

                  ミルクにオムツそして意味不明なことでも泣いている。

                  どうしてそんなに泣くのか?どこか具合でも悪いのではないかと、

                  私や舞は心配してアタフタしていた。

                   

                  翔ちゃんは、最初我慢をしていたが、次第に怒るようになった。

                  私は時に心の中で、あれは天使ではなく 悪魔ではないかと思えてきた。

                   

                   夜泣きがひどいので、翔ちゃんの部屋だった所に、舞のベッドを置き、

                  そこで、天使は舞と寝ることにした。

                   

                   天使の名前は、「浩太」

                  舞のお父さんが、産婦人科のあの助産師さんから、

                  名前をそろそろ決めてくださいと言われ、

                  勝手に「浩太」と名前をつけてしまった。

                   

                   名前の由来は大したことではない。

                  ただの思い付きだったと思う。

                  相模原の町長さんの名前をとった。

                  それだけだった。

                  なのに、「お前は偉い人になるぞう」と、舞のお父さんは満足していた。

                   

                   山田さんは、夜泣きは3ヶ月もすれば治るからと言っていたが、

                  あの金切り声の鳴き声が、本当に治るのだろうか。

                   

                   でも、天使は、昼間舞が洗濯をしている間等、少しの間だけだが、

                  まだ、起き上がれないので、

                  翔太のベッドの上で、翔太の横に並んで寝ている。

                  それを見ると、夜泣きも許せて可愛いと思う。

                   

                   ヘルパーさん達も、昼間はおとなしい天使を、みんな可愛がってくれた。

                  夜泣きが酷いんですと、舞がヘルパーさんに相談すると、

                  「子供は敏感だから、お腹の中にいる時、お母さんの不安が伝わっていたのよ。

                  でもまぁ〜、泣かせておきなさい。呼吸器が強くなるから」と教えてくれた。

                   

                  さすがっ!その通りかもしれない。

                   

                   夜泣きで舞を困らせているし、翔ちゃんの状態を見なくてはならないし、

                  赤ちゃんのオムツは交換しなくてはならないし、

                  子供も、翔ちゃんも風邪をひかないようにと心配して、

                  世話をしたりと、舞は、かなり疲れていた。

                   

                   翔ちゃんも夜眠れず、排尿をしたいのに、子供が泣いているからと我慢して、

                  尿路感染になって高熱を出した。

                   

                   1週間、早川病院へ短期入所もしたが、戻ってくれば、また、同じだった。

                   

                   舞は、子供にも翔ちゃんにも、当たるようになってきた。

                  私も、それなりに協力しているけど、仕事の合間しかできず、舞に負担をかけ過ぎていた。

                  舞が、泣き叫美ながら、夜泣きをしている子供を怒っている時、

                  代わって朝まで抱いていたこともある。

                   

                  子育ては経験した者でないと大変さが分からない物なのだと、

                  実感した。

                   

                  そんな時、何故だか、

                  おばあちゃんが歌ってくれていた”シャボン玉”の歌を思う出していた。

                   

                   ♩ シャボン玉 飛んだ。屋根まで飛んだ。 屋根まで飛んで 壊れて消えた。

                     

                   産まれてすぐに 飛ばずに消えた 風 風 吹くな シャボン玉飛ばそ ♩

                   

                   もうすぐ、シャボン玉が出来るようになれば、お母さんと シャボン玉が出来るからね。

                  歌いながら、私自身、自分にもそう言い聞かせていた。

                   

                  とは言っても、2月になっても夜泣きは止まず、

                  戸籍上、翔ちゃんの母になった山田さんが、夜間泊まることになった。

                   

                   カンファレンスの机は、端に寄せられ、そこが山田さんが夜間使う部屋になった。

                  翔ちゃんは、吸引はまだ、あまり必要ではないけれど、

                  自分で痰や唾液を出せなかったので、観察は必要だった。

                   

                   山田さんは、ナイトケアとして、足浴、マッサージ、顔を拭いて、保湿、

                  口腔ケアは、感染源となるので、丁寧に行なっていた。

                  山田さんの勤務体制は、パートの自由契約で、訪問は入っていない。

                  ヘルパー教育だけだったので、翌日休むこともできる。

                   

                  ベッドは、エアーマットへ変えていたので、体交はしなくても良い。

                  でも、ベッドの頭の位置をあげるので、どうしても、体が下に落っこちてしまう。

                  そんな時、体の下に、それ用のシートを敷いて、持ち上げる方法もある。

                  もし、シートがなかったら、45ℓか70ℓのゴミ袋でも良い。

                   

                   首が、頭を支えられない利用者様の場合 

                  自分(介護者)の胸と肩、脇の横あたりまでの筋肉で、患者さんの頭を包むように載せる。

                  そして、自分の両手を、患者さんの肩甲骨から腰の下にまで入るように、グゥと突っ込む。

                  自分の腕の中に患者さんの体重が乗ったら、そのまま手首を少し持ち上げ、

                  腕で抱き上げるような感じであげる。

                   

                  もし、自分で首を起こせる方なら、横スライドがオススメ。

                  自分の腰を痛めないので、この方が良い。

                  しかしこの方法にもコツがあるので、実際、理学療法士より指導を受ける必要がある。

                   

                   オムツ交換にしても、ヘルパーや家族が介護をする上で、上手な介助方法、

                  「てこの原理」みたいな物がある。

                  ヘルパー教育の際、何でも遠慮せず、理学療法士、または、看護師へ相談する様に指導した。

                  負わなくても良い負担を、負う必要は無い。それは無駄。

                  これも連携と安全保護。

                   

                  知らないことは、知らない。

                  分からないことは、分からない。

                  だから、相談していく。

                  それで良い。

                   

                   

                   早川君は、私の体調を心配してくれていた。

                   

                  「綾が作ったあったかいお味噌汁飲んでみたいなぁ」

                   

                  それが、どういう意味で言っているのか、聞くのが怖くて聞けない。

                   

                  確かに、天使が生まれてから、翔ちゃんと舞が夫婦であり、

                  3人は家族なんだというのを強く感じるようになった。

                  3人の家族という絆があり、そこに家族の輪があり、

                  入れない敷居みたいなものがある。

                   

                   

                  翔ちゃんの家にいるのは、家族であり、

                  私は、ただの居候に過ぎなかった。

                   

                  「私が作ったお味噌汁美味しくないのよ」

                   

                  と誤魔化して、私はその場を凌いだ。

                   

                   でも、きっと寒い冬の北風の所為だったのよ。

                  家族っていいなぁって思って淋しくなった所為よ。

                   

                   早川君と同じ朝陽を 見届けてしまったのは・・・・・・。

                   

                  早川君がお前は女なんだと這う指先に、身を任せてしまった朝、

                  早川君の指が奏でたメロディが、私の頭から爪の先まで、

                  高い山の上から滝壺へ激しく音を立てながら、打ち付けられるように落ちていった。

                   

                   水しぶきを高くあげながら、私の体に滝が落ちるような衝撃が走った。

                   

                  わたしは おんな だったんだ。

                   

                  私は酷くそんな自分の不甲斐なさに落ち込んだ。

                   

                   冬だから灰色の空だったら良いのに、

                  雪解けの青い空の下

                  自分がここにいるのが 恥ずかしくなった。

                   

                  ねぇ、沙希。

                   

                  私は、どこへ 飛んでいけば良いのかなぁ。

                   

                   

                   

                   

                  辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−13 手の掌に伝わる愛

                  2018.03.16 Friday 10:35
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                    第10章 訪問看護 2−12   手の掌に伝わる愛

                     

                     

                    翔ちゃんは、私が辛そうな顔をして泣いていたからか、

                     

                    呂律があまり廻らないのに、一言一言 ゆっくり 私に言ってくれた。

                     

                     私は、両手で顔を伏せて、泣かないように 気持ちを抑えながらも、

                    その想いとは裏腹に、素直な気持ちに流されて

                    涙がどんどん流れ落ちていく。

                     

                    泣くのを我慢しなければならないのだろうに、

                    私は 泣けない翔ちゃんの前で 思いっきり泣いた。

                     

                    翔ちゃんは、そんな私を見て、

                     天窓を見えげていた。

                     

                    自分の心が どこかへ 飛んで いきそうな顔をして。

                     

                     玄関チャイムの音がした。

                    翔ちゃんに、微笑むと、翔ちゃんは、瞼をパチっと1回閉じた。

                    顔を拭いて、鏡を見た。

                    私の目は真っ赤だった。

                    泣いていたのが、バレバレ。

                    また、玄関のチャイムの音がした。

                     

                     私は仕方なく、真っ赤な目をしたまま、顔を見られない様に玄関を開けた。

                    「綾!お前いつまで待たせるんだ!」

                    と舞のお父さんが、痺れを切らして怒っていた。

                    「あぁ〜、忘れてた」

                    「忘れてた?行くぞ」

                    「わかった。翔ちゃんに言ってくる」

                    「あぁ〜、ここで待ってるから、すぐだぞ。すぐ!」

                    「すぐね。すぐ来る」

                    翔ちゃんに、言って来るねと声をかけた。

                    もうすぐお昼の経管栄養の時間だから、ヘルパーさんが来るからと言い残して。

                     

                     おじちゃんは、舞の元気な顔を見て安心して泣き、孫を見て、

                    「俺にそっくりで、可愛い」とベタ褒めしている。

                    いや、それは残念な結果だったと、心の中で、クスッと笑った。

                    舞は、長い時、間陣痛と戦った。

                     

                     けれど、可愛い子供の顔を見たら、痛かったの忘れちゃたと、笑っていた。

                    母は強い。

                     

                     小さな手をした赤ちゃんが、舞に抱きかかえられて、おっぱいを飲んでいる。

                    この人が、お母さんだとしているのか、怖がらず、舞の乳首に口をつけて、吸っている。

                    誰かがこの子に、教えたわけではないのに、紅葉みたいな小さな手を、舞の胸に添えて。

                     

                    人間の本能なのかもしれない。動物的な本能。 

                    初めて見たこの光景が、神秘的に見えた。

                     

                    「ヨシ、一杯良いお乳が出るように、羊羹とカステラ買って来よう。綾、買って来い」

                    「お父さん、そんなのばかり食べたら、良いお乳が出ないの。糖分が多すぎ。根菜が良いのよ」

                    「そうかぁ〜、お前はよく勉強しているなぁ」

                    おじちゃんは、本当に嬉しそうだった。

                     

                    税金を貯蓄する為に、子供支援をするならば、子供が欲しい人達の援助をして欲しい。

                     

                    こんなに、純粋に 人を幸せにする天使が 産まれて来るのなら。

                     

                     翌日、翔ちゃんは、車椅子に乗って、介護タクシーで、山田さんと一緒に、我が子と面会した。

                    行かないつもりだった私は、舞達の子供が可愛くて、早川君の車で、病院に行ってしまった。

                     昨日翔ちゃんの前で、一杯泣いたからだろう、スッキリしていた。

                     

                     舞は、車椅子に乗っている翔ちゃんに、抱きついて泣いていた。

                    「痛かったんだから、痛かったんだから」を繰り返しながら。

                    舞は、赤ちゃんを翔ちゃんの胸に当て、その後、翔ちゃんの頬に、赤ちゃんの頬を寄せた。

                     

                    翔ちゃんは、愛し児に「あ・り・が・と・う」の言葉を送った。

                     

                     山田さんは、赤ちゃんに、新しい産着を着せた。

                     

                     そして、舞に、

                    「いつも、抱いてあげなさい。子供にとって、それが一必要な愛情のかけ方だから」

                     と教えてくれていた。

                     

                     翔ちゃんの手の掌に、小さな我が子の手を乗せてもらった時、

                     

                     翔ちゃんは、一生懸命・・・・・・指を動かそうとしていた。

                     

                     翔ちゃんの手の掌の中で、小さな指が、翔ちゃんの指をつかんだ。

                     

                     翔ちゃん、きっと、伝わっているよ。 

                     

                     翔ちゃんが 『おとうさん』 だってこと。

                     

                     

                     

                     

                     

                    辛いって言えないのが、ツラいよな。 第10章 訪問看護  2−12 つ・ら・い・な

                    2018.03.15 Thursday 19:48
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                       第10章 訪問看護 2−11 続編 つ・ら・い・な

                       

                       

                                                                                 

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                      舞と翔ちゃんの子供が可愛くて、

                      すっかり舞のお父さんを置いてけぼりにしていた。

                       

                      私は舞のお父さんを迎えに行くと約束していたんだった。

                      今どんなに気を揉んでいることだろう。

                      おじさんが待ちきれず、時計を放り投げて壊したりしていないかと

                      焦った。

                      それにこの子を早く見せてあげたい。

                       

                       私は、舞のお父さんを迎えに行く前に、一旦、翔ちゃんの家へ戻った。

                       

                       翔ちゃんの家へ帰ると、山田さんは、動画を見て感動して泣き、

                      また、舞も無事だったから良かったと安心しては泣き、

                      赤ちゃんの動きが可愛いと言っては、泣き笑いをしていた。

                       

                       翔ちゃんは意外と静かな感じだった。

                      「舞が、翔ちゃんに、会いたいって言ってたよ」

                      翔ちゃんは、パチっと瞼を1回閉じた。

                       

                       翔ちゃんは、舞が無事に赤ちゃんを産んでくれた事を、

                      嬉しそうな感じだったけど、

                      斜めに見える天窓の空ばかり、見ていた。

                       

                       あんなに泣いていた山田さんは、私の顔を見て、いつもの真面目な顔で

                      「明日の手配できたの?」と言った。

                      ギクッと、顔がこわばって、フリーズした。

                      忘れていた。

                      だけど、言い訳が、見つからない。

                      「これからです」と答えた。

                      (ヤバイ。これは怒られる。人との約束は確実にっていう人だから)

                      「よろしくお願いしますね綾さん。これから私は、孫の物を買いに行って来ます」

                      と言い残し、嬉しそうに、帰って行った。

                       

                       そんな山田さんを、翔ちゃんの部屋にあるベランダから見送りながら、

                      山田さんが”幼児教育に必要な本”を段ボールに沢山詰め込んで、

                      送るのではないか?と想像した。

                       

                      私は明日翔ちゃんが病院へ行くための介護タクシーの手配を忘れていた理由を 

                      山田さんに言えなかった。

                      早川君の許可をもらっていない理由を、翔ちゃんの前で言えなかった。

                       

                       ”早川君と隆弘が当直を変わったから、早川君に聞いていません。

                       だから、介護タクシーの手配は、まだです”

                       

                      なんて、そんな事、山田さんに、言えない。

                      対応し忘れていた言い訳を、自分の心の中で呟いた、

                       

                       隆弘と当直を交代した早川君に連絡をとり、外出許可を貰った。

                      明日、休みだから、病院へ一緒に行こうと誘われたが、赤ちゃんを出迎える準備をするから、

                      山田さんを連れて行ってあげてと、お願いをした。

                       

                       今の心境からすると、私は、さっき、産婦人科で、早川君に会いたいと思った。

                      会って「綾がしたことは、大丈夫だ」って言って貰いたくなった。

                      だから、明日こんな気持ちのまま会うと、私は歯止めが利かなくなる気がする。

                      このままの感情で会えば、早川君と同じ道を歩むことになるかもしれない。

                      そんな風な関係になってしまったら、優を失うかもしれない。

                      それは嘘の人生を歩むことで、早川君を騙すことになるのかもしれない。

                       

                       ベランダから 秋の優しい日差しが翔ちゃんの家を照らしている。

                       

                      今日は、絶好のお洗濯日和。

                       

                      風が少しだけ 優しく吹いて 翔ちゃんの部屋のカーテンを揺らしている。

                       

                      潮風が 心地よい風と日差しと共に 私の中に 秋を思い出させた。

                       

                      海は夏のように キラキラ ギラギラした波を 照らしているのではなく

                      淋しそうに 静かに 泣いているように 私の目に 映している。

                       

                      11月中旬、来週位になると、富士ヶ丘の山間が、一面紅葉で敷き詰められる。

                       

                      そういえば、ここには、紅葉がない。

                       

                      急に富士ヶ丘が懐かしくなった。

                       

                      もう 11月なんだ。

                      何故だか 切なくなる秋。

                      夕暮れが優しいからなのか、秋は切なくなる。

                       

                       魚の餌になるからと駄菓子屋のおばちゃんから頼まれて、

                      優や翔ちゃんや隆弘に沙希と、どんぐり拾いをして駄菓子屋へ持って行ったことがある。

                      100円位は貰えるのかと思って頑張って拾ったのに、

                      30円のアイスクリーム貰っただけだったから、あの時は、みんなでがっかりした。

                       

                      みんなで栗拾い行ったり、稲刈りの後、干している稲を一列倒して、遊んだ事もあった。

                       

                      あれは、かなり怒られたな。

                       

                       優のお母さんは 秋に 亡くなった。

                      優が小さく震えながら蹲って泣いている体が

                      夕焼けの影に、背中だけ写していたのを

                      幼稚園児の私は、優に何も出来ず、

                      優の悲しんでいる姿を、ただそれを、

                      見つめるだけしか出来なかったトラウマがある。

                       

                       だから、秋は切なくて 悲しくなる。

                      そして、人を慕う想いが募る。

                       

                       優は 今 どうしているのだろう。

                       

                      ・・・・・・どうして、優は、島へ行くのだろう。

                       

                      優が、一人で 島に行くのなら 私も 行きたい。 

                       

                      どうすれば 優に会えるのだろう。

                       

                      優は 秋の夕陽を一人で見て 泣いたりしていないだろうか。

                       

                      優は 私とお別れをした時に 

                       

                      ”いつか落ちない紙飛行機を作ってくれる”と約束してくれたけど、

                       

                      優は 落ちない紙飛行機を まだ作っている途中なのかなぁ。

                       

                      まだ、まだだから ここへ来てくれないのかもしれない。

                       

                      富士ヶ丘に帰れば 優に・・・・・・会えるかもしれない。

                       

                       

                       私が押しつぶして 胸の中にしまい込んでいた感情が、また、蘇りそうになったのを抑えた。

                       

                      もう、優とは終わったんだから、諦めるしかない。

                       

                       

                       私は気持ちを切り替えて、翔ちゃんの様子を見に行った。

                       

                       翔ちゃんは、また、天井を見上げたまま、天窓から斜めに差し込む秋の日差しを受けていた。

                      もっと、喜ぶと思ったのに、翔ちゃんは 静かな笑みしか浮かばせていなかった。

                       

                      多分、翔ちゃんは、子供の将来が、不安なんだろう。

                      それが、現実的に 翔ちゃんに押し寄せているのだろう。

                       

                      そして、舞の事も心配なんだろう。

                       

                      それから、自分の余命が不安なんだろう。

                       

                       人を思いやり 心配しても、ここにいるのは、

                      何もしてあげられない自分だとしたら、

                       

                      ・・・・・・私なら、どうするだろう。

                       

                      それは かなり 一番ツラい。

                      辛すぎる。

                       

                       優しい翔ちゃんの心の中は どれほど複雑な心境なんだろう。

                      私なんかの淋しさなど どうでも良い位のことなのかもしれない。

                      ワガママで 贅沢な悩み。

                      翔ちゃんからすると、悩みのレベルに達していなかもしれない。

                       

                       生きていたいから、苦しむこともある。

                      苦しんでも生きていたい。

                      大好きな人がいるから、生きていたい。

                      大好きな人がいるから 苦しくても生きていたい。

                       

                       翔ちゃんは自分が長く生きると 舞に迷惑をかけるからと、治療をしない。

                      それを 今 悔やんでいるかもしれない。

                      子供の成長を 少しでも長く見守りたいと 思うようになったのかもしれない。

                       

                      大好きな人に迷惑をかけるから 治療はしない。

                      翔ちゃんのその選択は 間違っていたと思っているのかなぁ。

                       

                      延命治療って どれが 自分の希望なのか 本当は本でもわからないのかもしれない。

                       

                      翔ちゃんの枯れてしまいそうな心から 侘しさを感じる。

                       

                      「翔ちゃん、遠慮しないで、ベル鳴らしてよ。体の向きを変えるね」

                      私は、翔ちゃんの体を横側にして、背中を摩った。

                      寝ている時間が多いから、背中を撫でるでけでも、気持ちが良いそうだ。

                       

                      翔ちゃんは、パソコンの方を見た。

                      私は、コクンと頷き、ベッドのリモコンで、頭と足のボタンを押して、

                      翔ちゃんが、良いという表情の所で、リモコンをストップして、パソコンを渡した。

                       

                      「子供の名前」パソコンに打ち出されて行った。

                      「子供の名前?翔太郎、翔乃助、翔左衛門」

                      私は冗談を交えて 笑いかけた。

                      翔ちゃんは呆れたような顔で笑った。

                      「舞に決めて貰う」

                      「明日ゆっくり2人で決まれば?」

                      「子供の名前を呼ぶのは舞だけだから」

                      翔ちゃんが パソコンで打ったその言葉の深さが 私の心を凍らせた。

                       

                      「・・・・・・うん」

                      こんな時、友人として、あまり興味がないフリをすれば良いのだろうか。

                       

                       利用者さんの時は、冷静に対応できるのに、体が固まっているのが自分で分かった。

                      そんな私の表情を見て、翔ちゃんは話題を変えてくれた。

                      「これから、もっと、綾に迷惑かけるな」

                      「迷惑だとか、そんな事思っているならしないよ。自分がやりたいからする。私の性格知ってるでしょ」

                      翔ちゃんは、アイコンタクトで頷いた。

                       

                       翔ちゃんの背中の洋服を綺麗に伸ばし、ベッドを倒し、仰向けの姿勢に戻した。

                      パソコンは、オーバーテーブルの上に戻した。

                       

                      翔ちゃんと目と目が合った。

                      心配そうな顔で見ている。

                       

                      翔ちゃんの前で泣いてはいけないのに、私は涙が溢れて止まらなくたった。

                       

                      明日、翔ちゃんは、生まれてきたわが子を見て、

                      感激して嬉しいと思うだろう。

                       

                      でも、その反面辛いかもしれない。

                       

                      隆弘に、舞の事頼むって言ったけど、辛いでしょ。

                       

                      ここで、自分の子供が泣いていても、誰かがいなきゃ 車椅子に乗れない 辛いでしょ。

                       

                      モルモットになるって言ったけど、本当は辛いでしょ。

                       

                      どうして、何でも 我慢するの。

                       

                      私は、いつ血管が破裂して出血するか、動脈瘤にできた血栓が詰まるか、

                      毎日 わからない。

                      だけど、毎日 普通に 生活している。

                      みんなと同じように生活できている。

                       

                      余命がいつかわからないから、私は ズルイ生き方なんかしたくない。

                       

                      ストレートに生きたい。

                      なるべく 素直でありたい。

                       

                      喧嘩や人と争っても 明日 謝れるかどうかわからない。

                      だから、人とは争いたくはない。

                       

                      折角、出会った人と同じ時間を過ごすのだから、笑っていたい。

                       

                      人を責め立てるより、「大丈夫だよ」と微笑んでいたい。

                       

                      人を傷つけて 自分の価値観をみんなに認めて貰おうとは思わない。

                      そんな物は 「薄」薄いその場凌ぎにすぎない。

                       

                       高校生の頃、翔ちゃんは、みんなが どこに就職しても 進学しても

                      俺はここにいるからって言ってくれた。

                       

                      今は違う意味で 翔ちゃんは ここにしか居られない。

                      それって 辛いでしょ。

                       

                      舞に泣き言は言えないでしょ。

                      隆弘や早川君に弱い所を見せたくないでしょ。

                       

                      私は、翔ちゃんが 辛いって言っても かっこ悪いなんて 思わないよ。

                       

                      翔ちゃんは 大きな人だと思っているから。

                       

                       私の心の中には、翔ちゃんに 言いたいことが 沢山 積み重なっているのに

                      翔ちゃんに 言えない言葉や気持ちがある。

                       

                      友情の形によっては 時に 残酷なその場しのぎの同情にすぎないこともあるから。

                      そんな風に思われるのは いやだ。

                      翔ちゃんを 精神的に追い込むことになる。

                       

                      私や早川君や隆弘の友情は そんな軽いものではない。

                       

                       悲しくて泣いているのか どうして泣いているのは 本当は良く分からない。

                      でも、涙が 溢れて 止まらない。

                       

                      私は、思っている事が、顔に直ぐ出てしまう。

                       

                      翔ちゃんは、泣いている私を見て、何か言いたそうだった。

                       

                      私は、翔ちゃんの目を見つめた。

                       

                      「つ・ら・い・な」

                       

                      余り呂律が廻らなくなっていて、言葉を出すのを拒んでいたのに、

                       

                      一言一言、ゆっくりと 丁寧に

                       

                      思いを込めて 言ってくれた。

                       

                      私は 翔ちゃんの固くなってきた手を握って 床に崩れ落ちてしまった。

                                     

                      優に会いたいとか、早川君に会いたいとか、そんな事を思っている自分が恥ずかしい。 

                       

                      「翔ちゃん、私、ここに・・・・・・居たいの。だからここに居させて」

                      翔ちゃんは、涙をこらえ 息を止めて 

                      あまり動かなくなってきた瞼で、パチっと答えてくれた。

                       

                      私は、この家族を 愛している。

                       

                      だから、守りたい。

                       

                      翔ちゃん 死ぬのって 怖いよね。

                       

                      悲しいけど 私には その気持ちが みんなより よく分かる。

                       

                      翔ちゃんの不安や怯えている気持ちが 私にはよく分かんだよ。

                         

                       

                       


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