辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  18 生きていたい

2018.06.24 Sunday 15:42
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     私は携帯電話を手に取り、舞に早川君のお母さんと買い物へ行くと伝えた。

    「あちゃぁ〜、大変だねぇ〜お嫁さんは。早川君も一緒?頑張ってね。分かった。ハイハイ」

    舞はそう言ってガチャっと電話を切った。

    何が大変で、何を頑張ってか?私の頭の中は、❓❓クエスチョンマークで埋まった。

    しっかし、舞は相変わらず舞ペースだなぁ。

     舞との電話の内容を思わず早川君に喋りそうになったのを我慢した。

    変な勘違いされると、気不味くなってしまう。

    自然が一番良い。

    ぎこちないのは居心地が悪い。

     

     不思議な顔をしてボゥ〜と立っていた私を見かねて、車のウインドーから

    「どうしたの?」

    と静かな口調で声をかけてくれた早川君に

    「ウウン、なんでも無い」

    そう言って微笑むと、笑顔で頷いてエンジンをかけた。

     

     車の後ろに乗ろうとしたら

    「綾さんは助手席よ」

    車の後部座席にいる早川君のお母さんは、私に向かって手を広げ、” DON'T ” と

    私が後部座席に乗るのを差し押さえた。

    「だって事故にあった時、助手席が死ぬ確率高いから怖いじゃ無いの」

    「えぇ〜そんなぁ〜」

    私はこの人はなんて良い人なんだとつくづく思いながら、

    恥ずかしい気持ちをバレないように、笑って誤魔化して助手席のドアを開けた。

    「ゴメンね」

    早川君はお母さんの言葉に対して謝っている。

    「大丈夫です。わかっているから」

    早川君は私の言葉に安心した顔をして、ハンドルを握った。

    バックミラーには、ウキウキした嬉しそうな早川君のお母sんの顔が写っているだろうと想像しながら、

    私は買い物同行という軽い気持ちで、呑気に車の助手席に寄りかかっていた。

     

     私は、てっきり近くのスーパーへ行くのかと思ったら、

    舞鶴まで行き、例のあのデパートの中へ入って行った。

     

     そう言えば 買い物って何を買うのか聞いていなかった。

    勝手に夕飯の食材だとばかり思い込んでいた。

    私は 時々 いや かなりよくあることだけど、突っ込んで話を聞かない。

    大体、仕事以外のことは人に身を任せている。

    仕事以外のことは ”なるようになる ” みたいな性格。

    だから、計画性もあまりなく、気の向くままなところがある。

     

     でも、まさか・・・・・・優の指輪を買ったあのデパートへ行くとは・・・・・・。

    まぁ〜良いかぁ。

    なるようにしかならない。

    店員さんから暴露されても 仕方ない。

    それに あの指輪は まだ 優に渡していない。

    私の部屋に置いたままになっているから。

    そんな言い訳を頭の隅で考えながら、デパートの駐車場からエレベーターに乗った。

     

     お母さんが、アロマオイルをいつも買っているというお店の中に、

    連れられてしまった。

    買い物が嫌いな私は、食品売り場で食材を買って、

    早く用事を済ませれば良いのにと思っていた。

    開き直りたいけれど、なんとなく落ち着かない。

    まるで 犯罪でも犯したのが バレるかもしれないような気分になっていた。

     

     でも、アロマオイルは好きだから、見ているうちに、楽しくなり、匂いを嗅いで楽しんだ。

    早川君は、ヒノキのお香の前に立って、じっくり考え込んでいた。

    ヒノキの香りが気に入ったらしい。

    ヒノキのアロマは、どこにでもあるわけではなく珍しいと、お店の人が言っていた。

    それが本当かどうか分からないので、半分聞き流した。

    信用性がない人のサービストークは信じないことにしている。

    どうしてかというと、私はすぐ 人を信じてしまうから、

    後でショックを受けることが多すぎる。

    だから、なるべく信用性がないサービス営業トークは 信じないように気をつけている。

     

     ヒノキの香りがするアロマを、私は嗅いだ事がなかった。

    早川君が言う通り、確かに、ヒノキの香りは良い。

    「ヒノキのアロマを買おうかと迷っているんです。でも男が買うのも変ですよね」

    「そんな事ありませんよ。この香り好きです」

    「良い香りですよね」

    「好きです。これ」

    「これね。これ」

    早川君はそう言って、ヒノキオイルを2瓶持ってレジへ向かった。

    「2瓶も買うんですか?」

    「チョコのお礼です」

    「はぁ〜」

    「ヒノキのアロマは癒やされるわよ。嫌いなの?」

    「いいえ、好きです」

    早川君のお母さんは、悪戯っ子みたいな顔をして、私と早川君を交互に見た。

    「それは良かったわ。だったら、そうなさいね」

    別に、早川君のために作ったわけでもないチョコのお礼を買って貰った。

     

     早川君が買う時に、” これは綾の分です” って言えば、 ”要りません”と言ったのに!

    白衣を着ている時は、イエスとノーを、ハッキリと言うのに、

    白衣を脱いだら、曖昧に誤魔化している気がする。

    このギャップと揺らぎが 堪らなく・・・・・・ 良い。

     

     いつもの私なら、男の人からプレゼントをもらうことなどは、断固拒否してきたのに、

    私を不快にさせない。

    どうしてだろう。

    私の中では、絶対的に信頼できる医師ではあるんだけどなぁ〜と、早川君の背中を見つめた。

     

     いつも見ているその背中を、逞しいと感じた自分に驚いて、ドッキっとした。

    ・・・・・・どうしよう。

     

     さっきの”好きです”という言葉を、違う意味で取ったかもしれない。

    嫌いじゃないけど、好きかと聞かれると答えようがない。

     

     今まで私は、そんなに早川君の事を 好きとか嫌いとか、異性として意識した事がない。

    だから私が、この人を好きになるはずは無い。

    ただ何となく、スーツ姿の背中が、私の中に、モヤモヤした感情を残した。

    このモヤモヤした感情はなんだろう。

     

     アロマのお店の斜め前に、例のあの宝石店がある。

    この前来た時に対応した店員がいたら、マズイ!

    やっぱり不味い。

    折角の幸せへの展開が 壊れてしまう。

    ・・・・・・どうしよう。

     

     はっきり 正直にいう方が楽な気さえしてきた。

    でも、そんな勇気など持ち合わせていない。

    平和主義者の私は、日々平穏無事に終わることを目標にしている。

    ここで 平和が遠ざかると、明日からの仕事にも影響する。

     

     私は、宝石店と反対側へ顔を向け、早歩きをして通過しようとした。

    「あらっ!これ素敵だわ」

    ガァ〜ン。嫌な予感。

    こんな時は、聞こえなかった振りをするに限る。

    小走りで6歩くらい行けた所で、足を止められた。

    「綾さん!ちょっと綾さん」

    どうして相模原町の住民は、大きな声を出して、人の名を呼ぶのだろう。

    「ハイ」

    仕方なく後ろを振り向き、顔を引きつらせながら返事をした。

    私の思いとは裏腹に、屈託のない満面の笑みで手を振っている。

    通り行く人の波が、私の顔を少し微笑みながら見ている。

     

    「あなたが 綾さんですか。呼んでいますよ、ご愁傷様」

     

    とでも言いたい様な感じで、口に手を当てながら通り過ぎる人もいる。

     

    その人達へ、この人とは知り合いではありませんと言いたい気分で暗くなってしまった。

    そんな私の思いは御構い無しのようで、

    「ちょっと、これ素敵じゃない」

    全く興味がない指輪のケースを覗いたまま動こうともしない。

    仕方なく私は 早川君のお母さんが指差す指輪の方へ視線をやった。

     

      照明が当たって、キラキラ輝いている指輪を、楽しそうに見ている。

     

     ただ売るための攻略に過ぎないと、わかっているのに。

    どうしてだろう。

     

     私はこの人が、嬉しそうな顔をすると、安心する。

    そして、嬉しくなる。

    もっと、笑って貰いたいと思うし、もっと、嬉しそうな顔をしていて貰いたいと思う。

    多分、この人が喜ぶことは、良いことだと認識するのだと思う。

    「すみません。迷惑ですよね」

    その時、ふと早川君が自分の母親の事を身近に感じ、謝っていることに焼き餅に似た感情を抱いた。

    それが早川君に対してなのか、早川君のお母さんに対してなのかわからないけど。

    「そんな事ありません。早川君のお母さんて、子供みたいに邪気が無くて、可愛いですよね」

    「そうしているのは、綾だから」

    「私がですか?何もしていませんよ」

    「攻撃性がないからです。綾に」

    「私は単純なんです」

    「綾といる時、母は嬉しそうな顔をしています。だから・・・・・・安心します。僕は」

     

    私は中学の時、漢文がとても好きだった。だから、この言い廻し方が気になる。

     

     ” だから、僕は安心します ”と言われたら、引く。

     

     ” だから、僕も嬉しいです ” と言われたら、引く。

     

     早川君の言葉、一つ一つが気になる。

     

    お母さんの話題に変えよう。

    「良い人ですよね」

    「そうですか?かなりの自己中だと思います」

    「私は宝石に興味がないんです。でも、早川君のお母さんが笑うと、パワーストーンに思えてきます」

    「それは凄い」

    「楽しそうに笑うからでしょうね」

    「良かった。・・・・・・脳は書き換える事が出来るんです」

     

    「じゃあ、私は、今この時点で、書き換えているんですね」

    つまらない事が、楽しくなるなんて面白い!っとワクワクした。

    それが楽しい事だと私の脳が判断して、嬉しい表情になっているのが自分でも感じた。

    「でも、直ぐにインプットしたらダメですよ。それは単なる思い込みです」

    私は何でも、顔に直ぐ出る。だから、人から心を読まれる。

    裏も表も持っていない。 

     だから、いつもストレート。

    気を付けよう。

    早川君を異性として意識し始めている事がバレそうだから。

     

    「今まで興味が無かった物を、急には、好きに成れません。信用があれば、別です」

    「信用ですか」

    「そう。嫌いだった事でも好きになったりします。興味が無かった”もの”でも」

    「そう・・・・・・ですか」

    「そう。そこにあるのは、情です」

    「情で書き換えられるのですか」

    「そうです。脳は毎日動いているんです。右脳と左脳を両方使えば、もっと面白いんですよ」

    「例えば?」

    「右利きだからと言って、右だけ使うのではなく、左でお箸を持ったり、足で字を書いたり」

    「その発想、面白いですね」

    私は早川君と喋っているのが、楽しくなって、ハハハッと笑っていた。

    「あら、あなた達、こんな素敵な物を目の前にして、ゴチャゴチャと」

    「すみません」

    あっさりした口調で叱った早川君のお母さんは、お店の中の綺麗な品物を、

    じっくり味わうように、ゆっくり歩き始めた。

    仕方なく、私達も後ろを付いて歩いた。

    あの店員さんは居ないみたい。今日はお休みかも。

     

     何にも考えてなさそうにポンと言うけど、この人、賢い。

    さっき、静かにしなさいと言えば済む所を、こんな綺麗な物と言う言葉を先に出した。

     

     私の頭の中には、綺麗と言う言葉で、綺麗な物のイメージが強く湧く。

    その脳に、”ゴチャゴチャ”と言う言葉を聞いても、

    不快な感じに成らずに、静かにしなさいと言う事だと受け取る。

     

    しかも、語尾をモゴモゴと丸め込むように言って、誤魔化した。

     

     私は、金色の文字に書かれた言葉を見て、立ち止まった。

     

    『永遠の絆・永遠の愛・永遠の誓い』

     

    ・・・・・・永遠。

     

     そんな事を、こんな物で約束出来ない。

    生命保険じゃ有るまいし、こんな物で永遠の愛なんて、保障しては貰えない。

    私に永遠を誓ってくれる人なんか居ない。

    「ダイヤモンドは素敵ね。この指輪をはめているだけで、守られているって感じがするわね」

    「そうなんですか?それって保障されている感じですか?」

    「保障と言っても、補う補償で良いのよ。永遠を補いながら尽くします。それで良いのよ」

    「成る程、補う方の保障ですね」

    「どのようなデザインの物がお好みですか?」

    若い女性の店員さんが、声をかけてきた。

    「買わないので。見ているだけですから」

    と、私は店員さんに、これ以上は来ないでという感じの態度で、キッパリ断った。

    「あら、綾さんこれ素敵よ。嵌めてみて。嵌めるのはタダよ。これが良いわねぇ」

    早川君のお母さんは、グリーンのダイヤを指差した。

     

     その時既に店員さんは、鍵を手に取り、鍵を開ける体制に入っている。

    このタイミングを逃さないという感じだ。

    「綾はどれが良いの?」

    隣にいた早川君から聞かれた。

    店員さんと早川君のお母さんが、ダイヤモンドのキラキラした光を浴びながら見ている。

    この雰囲気で、ダイヤモンドなんて別に興味がない・・・・・・なんて言えない。

    「ウゥ〜ン。迷いますね」

    「綾の好きな色は?」

    「別に拘りはないです」

    「じゃあ、好きな花は?」

    「ガーベラ。ガーベラを見ると癒されます」

    「お店でガーベラが沢山並んでいるとしたら、何色のガーベラを選ぶ?」

    「ピンクです」

    「じゃあ、綾が好きな色は、ピンク」

    そんな風に言われてみると、ピンクが好きなのかもしれない。

    かと言ってピンクの洋服を着るわけではない。

    でも、ピンクのガーベラを見ると、元気が出る。

    「じゃあ、ピンクのダイヤを」

    えっ?ピンクのダイヤ?今ガーベラの話をしていた・・・・・・だけなんだけど。

    「左の薬指でよろしいんですよね」

    店員さんは、早川君と私を交互に見た。

    嵌めるだけなら、タダと言っていたから、別に意味は無い。

    意味は無いけど、なんて答えて良いのかわからず、早川君を見た。

     

     早川君は、強引にそれを決める感じではなく、大丈夫だよというような顔で、

    優しくニッコリ微笑みながら、頷いてくれた。

    「左の薬指は、永遠なんだから」

    早川君のお母さんが、私の背中へ、子供をあやすかの様にそうっと手を当ててくた。

    左の薬指は、永遠。早川君のお母さんが言った言葉を、あたたかいと感じた。

    そして、待ってくださいという間も無く、店員さんは指輪のケースを持って待っている。

    早川君の顔を見た。

    早川君は、ニッコリ笑って、私のバッグを持ってくれた。

    そして店員さんは、今だ!という感じで、私の左の薬指にはめた。

    ウワッツ!本当に、はめた。

     

    でも、・・・・・・以外と素敵。

     

     私は、四方八方から照らしているライトの位置で、色が微妙に変わるダイヤモンドを、

    斜めにしたり、上にあげたり下に下げたり、動かしてみた。

     

        このダイヤモンド綺麗。

     

     ピンクのダイヤモンドは、リングの中で、凛としている。

    そして、強かな感じがする。

     

     その強かさの中に、可憐な日本女性の姿を思い浮かばせる。

    あの内裏雛のお姫様の唇みたい。

    「あらっ、それも素敵だわぁ。綾さんそれが似合うわ」

    「そうですか。これ可愛いですね」

    なんだか、お店のモデル商品なのに、段々自分の物の様に思えてきた。

    「これで宜しいですか?」

    「アッ、待ってください。これは買いません」

    危ない、危ない。買わされるところだった。

    「はい。それを」

    ・・・・・・早川君。

    私は、どうしようと迷って、早川君の顔を除いたのに、

    優しい顔で、ただオモチャを買ってあげるだけだからという様な、

    軽い感じの声のトーンが、私の耳に心地よく入ってきた。

    それが、居心地よく、それを失うのが怖くなった。

    「・・・・・・良いんですか?」

    「勿論。何か問題はありますか?」

    「・・・・・・ありません。いヽえ、有ります。こんな高い物を買って頂くなんて・・・・・・」

    「お金の心配ですか?」

     

    この指輪を手にしなかったら、私は永遠に幸せが来ない気がした。

     

    また、ひとりぼっちになる気がした。

     

    この人は、多分、永遠に私の事を大切にしてくれる。

     

    こんな私を、受け止めてくれる。

     

    この指輪があれば。

     

    独りぼっちは、怖いから、これを買って下さいと、泣きそうになった。

     

     早川君のスーツを摘んで、買って!と、せがみたくなった。

    言葉を選んでいたら、本当に泣きそうになって、早川君を見つめた。

    「お金なら心配ない」

    「はい、でも・・・・・・良いんですか?」

    「何も心配しないで。大丈夫だから」

    ・・・・・・大丈夫だから。

    その言葉だけでも良い。

    私は、コクンと頷いて、ありがとうの言葉を伝えた。

    あんなにシャキシャキお喋りしていた早川君のお母さんは、いつの間にか、いなくなっていた。

     

     食材の買い物を終え、早川邸で夕食を囲み、お茶碗を洗っている時に、

    ふと、我に返った。あの時流れで買ってしまったけど、

    良く考えて見ると、これってやっぱり、結婚をするって事?かなぁ〜。

     

    私もしかしたら・・・・・・婚約したの?

     

    「エッ?エェ〜、エェ嘘!」

     

    私は、いきなり大きな声を発してしまった。

    「あら、綾さんどうなされたの?」

    「いヽえ、別に。あのぅ〜、すみません。勝手な妄想・・・・・・もしかしたら指輪って」

    「ハハハッハハ。あら可笑しいわぁ。ハハハハッハハハ」

    「可笑しいですよね。もしかしたら、婚約指輪って言う意味だったのかなって」

    「他にどんな意味がるの?」

    「だとしても、そのぅ、そういう事を言われてないって言うか」

    「ハハハハハッハハ。トックン、綾さんが可笑しな事言うから、どうかしてあげて!」

    早川君のお母さんは、立ち上がり、2階にいる早川君に向かって言っている。

    2階から階段を、ドドドドと速いテンポで降りる足音がした。

    「ハハハハハッハハ」

    「綾、どうしたの?お母さん、そんなに笑って」

    「私、今、大変な事をしたのかもしれないって気づいて」

    「ハハハハハッハハ、貴方、今気付いたの?ハハハハッハハッハハ」

    「早川君ごめんなさい。私大変なことしたんですよね。ご迷惑をお掛けしてしまって」

    「お母さん笑い過ぎだよ。綾が困ってるから」

    「だって、今日買った指輪は、婚約指輪だったのか、分からなかったって仰るんだもの」

    「私、勘違いしているのかもしれないって・・・・・・してますよね」

    「私は、お風呂に入って来るわ」

    早川君のお母さんは、お風呂場へ行った。

    鼻歌を歌いながら、お湯をためている音がする。

    「綾は、迷惑なの?」

    「いヽえ」

     

    「綾、綾と僕は付き合っていた訳じゃない。けど、こう言うのはタイミングなんだ」

     

    「タイミングですか?」

     

    「大丈夫だから」

    「はい」

     

    「心配しなくても大丈夫。永遠に」

     

    「永遠ですか?」

     

    「そう、永遠に。忘れられない人が居たとしても、それでも良いんだ・・・・・・綾が」

    「・・・・・・私で良いんですか?」

     

    「綾が良いんだ。僕のお嫁さんは綾が良い。だから、家族になろう」

     

    「家族ですか・・・・・・良い響きです」

    「今日買った指輪を持ってきて」

     

     私は、リビングの椅子に置いたままにしてあったバッぎから、指輪の箱を取り出した。

    早川君は、その箱を開けて、私の左指にはめてくれた。

    私の左指可愛いピンクのダイヤが輝いている。

    「綾のことはずっと好きだった。この指輪を渡す前にプロポーズをしていたら、綾は断ったと思う」

    「そうかもしれません」

     

    「家族になろう」

     

     もし、早川君が「君の事を生涯愛します」とか「一生幸せにします」と言う人だったら、

    受けていなかったかもしれない。

     

    「家族になろう」と言う言葉に、曖昧な愛情を感じなかった。

    それに、このお家には、あたたかいお母さんがいる。

    私は、早川君に正座をして、よろしくお願いしますと頭を下げた。

     

     ねぇ、沙希。

    私は、早川君と家族になります。

     

     タイミングとは、チャンスなのかも知れない。    

     

     舞たちには、まだ、言えない。

    恥ずかしいから。

     

    沙希、私にも家族ができるんだよ。

     

    家族って、絆が深い気がする。

     

    自分がいつ死ぬか分からないって思ってきたけど、

    早川君が永遠だと言ってくれた。

     

     早川先生が、永遠だと言ってくれたから。

    だから、信じる。

     

    沙希、私がもう少しだけ 生きていられますように。

     

    死ぬのは お嫁さんになってからに、してほしい。

     

    私は 生きたい。

    そう思わせてくれる家族がいる。

     

    元気になれる人がいる。

     

    飾らなくても そのままで 受け止めてくれる人がいる。

     

    それが 幸せっていうものなのかもしれないね。

     

    沙希・・・・・・私は 生きていたい。

     

    ゴメンね 沙希。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    辛いって言えないのが、ツラいよな。 最終章  17   心地良さは 嘘がないから。

    2018.06.24 Sunday 13:58
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       最終章 16 続編  

       

       先週に引き続き、今週も断る理由もなく、

      早川君のお母さんの言葉と雰囲気とタイミングの上手さから逃れることが出来ず、

      私は洗濯をしながら、翔ちゃんの経管栄養注入時の状態を見守った。

       

       注入前の吸引では、粘調性の唾液を少量回収。

      注入後は咽頭部に痰貯留あり回収したが、注入直後は吸引の刺激で王としてしまう可能性あり、

      2回でやめた。

      右側臥位にして、笑顔で「大丈夫よ」と声をかけると、

      人工呼吸器のリークも安定してくる。

      この安心感が呼吸苦から逃れられるポイントでもある。

      人間は本当にナイーブな細胞の塊だと思う。

      精神的な援助で、身体的援助が行える。

       

       気がかりなのは逆流してきている感じがする。

      腸から胃の方へ逆流してこないようにしている幽門や

      胃から食堂へ逆流してこないようにしている噴門の括約筋の状態も落ちてきているのかもしれない。

      便秘もこれに深く関与している。それにサポートをしないと腹式呼吸が出来ない。

       翔ちゃんの腹部にはガスが貯留している。

      胃や腸のガスは、酸素と二酸化酸素の血液ガスの問題だけではなく、呼吸苦の要因になる。

       それに「ストレス」

      これは私には分からない測り知れないものがある。

      翔ちゃんは何も言わない。何も言えない。何も伝えられない。

      言ったらみんなを困らせるからだと思う。

      だから「辛い」って言えない。

       

       器質的に几帳面なので、どうしてもこれは我慢できない!という面は、譲らないけれど、

      画期的な活動をしてきた自分が、走り回って転びそうになっている自分の子供の腕を掴んでやれない。

      どんなに歯がゆい思いでいるのか・・・・・・。

      それを我慢するのが辛いのか、それを失い死を選ぶのが辛いのか・・・・・・。

      私もわかななくなってきたよ。

      もしかしたら、私は酷いことをしているのではないかと、時々思うよ。

      翔ちゃんは、どう思っているのだろうか。

      それを聞いたら終わりのような気もする。

       もしも、もしも自分だったら、どう思うのかな?

      分からないから何も考えたくない。

      考えるのが辛いから、

      私はきっと、多分「眠らせてほしい」と言うだろう。

       

       翔ちゃんは、リークの動きを厳しく見ている私の顔を見逃さず見ていた。

      翔ちゃんを心配させてはいけない。

      「翔ちゃん、私今から早川君のお母さんに作法を教えてもらいに行ってくるね。厳しい先生なのよ」

      翔ちゃんは、早川君のお母さんが、私に作法を教えているのを想像してか、

      思い出し笑いを浮かべているように感じた。

      翔ちゃんは、私の目を見て、パソコンの方に視線をやって合図した。

      「パソコン?」

      目を何となく閉じた感じになった。

      はっきりとアイコンタクトができなくなってきたから、

      よく観察して、気持ちを汲み取らなければ意思疎通ができない。

       

       翔ちゃんの体を左側に寄せて、パソコンを翔ちゃんの右側のベッドの脇に置いた。

      翔ちゃんは、少し揶揄うような顔をして

      「お嫁さんになるの?」

      とパソコンで打った。

       私はその言葉にドッキとした。

      自分には味わえない幸福感だと思っていた物。

      それをこんな私でも、味わえるのかも知れない。

      心の中で ” どうせ私はもうすぐ死ぬのかも知れないんだから幸せになんてならなくても良い”

      そんなふうに思っていたけれど、幸せになりたいと我儘を言っても良いのかも知れない。

      もう私の余命は短い。

      残りの時間がないから、素直に生きても良いのかも知れない。

      そんな風に我儘を言えていたなら、優を失うこともなかったかも知れない。

       

       家政婦さんが10時の交代時間がくるからか、忙しそうに翔ちゃんの周りを掃除している。

      噂話が好きな女子の前で、言葉に出して伝えるのは危険。

      噂話は小さな話がとんでもない話に広がる。

      こんな話題は、女子の憩いの暇つぶしにされてしまうだろう。

      プライベートの事は、文字通り本人自身のことであり、本人にしか分からないのに、

      女子は余計なことを詮索して面白いネタにする。

      本当に面倒臭い生き物だと思う。

       

       家政婦さんが何かを取りに翔ちゃんの部屋から出て、階段を降りる足音がした。

      「翔ちゃんパソコンのその文字は削除するよ。面白ネタにされるから」

      私はパソコンの文字を一文字ずつゆっくり消していった。

      これを打ってくれた翔ちゃんの想いは、私の幸せを願ってのことなんだとひしひし感じたからだった。

      「翔ちゃん、私・・・・・・なれるかな?」

      翔ちゃんに微笑みながら聞いてみた。

      翔ちゃんは閉じなくなってきている瞼を、懸命に動かそうとしてくれている。

      「ありがとう」

      家政婦さんと介護の人が交代の時間になり、翔ちゃんの部屋に2人で入ってきて申し送りをしている。

      翔ちゃんは、私がどんな意味を込めて「ありがとう」と言ったのか知りたい感じだった。

      純粋に ”人を思いやる ” そんな優しい顔をしている。

       翔ちゃんから、素直に生きなさいと言われている気がした。

      (そうだね。それも悪くないね。素直に臆病にならず、我儘を言ってみようかな)

      私は心の中で、翔ちゃんに話しかけた。

       不思議なもので、当の本人にはその気が無くても、周りの人達からチヤホヤ囁かれると、

      段々その気になってくる。

       私もなんと無く、意識している。いやかなり意識し始めている。

      早川君は優のことで、どん底に落ち込んでいる私の中に、ストライクでストーンと入ってきた。

      これは、タイミングだと思う。

      (お嫁さんかぁ〜、悪くないなぁ。良いかも)

       介護の人と家政婦さんに現状の情報共有をして「よろしくお願いします」

      とだけ言って、2人にどこへ行くとも告げず翔ちゃんの部屋を出た。

       

       着物一式が揃っているのかを再確認して早川邸へ車で向った。

      翔ちゃんの家の高台から、海岸沿いに出た時、海は広いんだなぁと改めて感じた。

       ” どうせ私なんて 何でも私が我慢すれば良い ” そんな風に生きてきたけれど、それは良い子じゃない。

      ただの 心の器のちっちゃい臆病な人間 。

       

       私も幸せになりたい。

       私は幸せになる。

       私は幸せになれる。

       生きているから、その権利を持っている。

       たとえ、その時間が短くても長くても変わりはしない。

       幸せだと思える権利をみんな平等に持っている。

       

       早川邸に着き、早川邸の駐車場に置いている早川君の車の横に並べて止めた。

      (今、早川君居るんだ)

      早川邸の玄関チャイムを鳴らした。

      「ハイハイ、いらっしゃい。空いているわよ」

      「アッ、ハイ。入って良いんですか?」

      「アラッ、綾さん他人行儀な!早くお入りなさい」

      「アッハイ」

      (他人行儀なと言われても、まだ他人なんだけど)

      ・・・・・・まだ他人?私はなんてことを思っているのか。

      自分で思ったことが余りにも突飛容姿もつかないことだったと、

      自分に対して私なんてバカな事を想像したんだろうと、笑いがこみ上げてきた。

      「何を一人でニヤニヤしているの?さっさとお入りなさい」

      私はどんな顔をしていたのだろうと、恥ずかしくなって真面目な顔をして玄関のドアを開けた。

       

       早川君はリビングにはいなかった。

      理事長が相変わらず、ドッシリとお気に入りのソファに座っていた。

      軽く挨拶をした後、茶の湯が行われる部屋へ行き着物を身に纏った。

       幾分慣れて着たけれど、時間が経つと帯や着物が崩れてくる。

      着物の着付けは、腰紐の締めが大事らしい。

      腰紐というから腰部かと思いきや、結ぶのはウエストだった。

      一番細い所でキツく結ぶから、着崩れしにくいらしい。

      着物を着るのに、1時間は掛かってしまう。

      でも、嫌ではない。

      着物を着ると日本人なんだなぁって実感する。

       

       早川君のお母さんから、華道を教えて貰った。

      お茶の立て方だけではなく、障子の開け方や畳の上の歩き方、人への器の出し方等

      作法は中々奥が深い。

      だから綺麗にそれが出来ている早川君のお母さんを尊敬する。

      不快な感じがない。

      むしろ、かなり居心地の良さを感じる。

       

       お茶を立てる時、人は「無」になるそうだ。

      昔、戦国武将達は、どんなにお互い争っていても、どんなに卑劣な事を考えていても、

      この時間だけは、人は平等に「無」になったと教えてもらった。

      人が平等に「無」になれるのは、当たり前のようで当たり前ではない。

      だから、この時間は居心地がいい。

       そして、このお茶の時間、つくづく思うことがある。

      「 人は待つことが大切なんだ 」と。

      お茶を飲むまで時間がかかる。

      作法を踏まえるから時間がかかる。

      そこは省略して、お茶だけ飲めば良いとも思うけど、

      段々その作法があってこそだと思えるようになってきた。

       静かな時間の中に、厳かな空気が流れ、「無」の心になる時間を与えてくれる。

      そして、しなやかな振る舞いの中、おもてなしの心「 侘び 寂び 」

      が込められたお茶をいただく。

       人は誰も 侘しさや寂しさを持ちながら、それを打ち消して生きている。

      この時間は、それを素直に心に秘めた思いを込めて、お茶を立ててくれる。

      ” あなたも わたしも 同じ思いですよ。同じ人間同士だから ”

      そう思わせてくれる。

      だから、居心地がいい。

       

       そんな居心地の良い作法の時間を終えると、リビングで早川君が

      「じゃぁ、行こうか」

      と早川君のお母さんに声をかけていた。

      「アラッ!トックン誘う人が違うでしょ?」

      「あぁ〜、綾・・・・・・さん、買い物行こう」

      早川君はいつもと違ってかなり照れながらも、最後の「行こう」の部分は、

      軽いリズム感で快く私の耳に伝わってきた。

       行く?と聞かれていたなら、行かないと言ったかもしれない。

      人を誘うときは、優しく微笑みながら、威圧感なく、リズミカルに「行こう」が良い感じがする。

       

       私は、一旦早川君のお母さんの顔を伺った。

      目を細め、笑みを浮かべて、聞こえない振りをしている早川君のお母さんの優しさが心地よく、

      降参の白旗を心の中で挙げた。

      この親子に降参!

      「ハイ」

      私は早川君に笑顔で微笑みながら返事をした。

       

       

       ねぇ。沙希。

      これが自然な運命の流れなのかもしれないね。

       

       その為に、私は ここ相模原へ来たのかもしれないね。

      何か意味があるから、運命的な出会いがあるんだと思う。

      これが 最終的な運命なのか、途中下車なのか、寄り道なのかわからないけれど、

      何か意味があって 出会った人だから、自然に身を任せてみようかな。

       

       それが間違いでも 正解でも どちらでも良い。

      わたしが そうしたいと 自分で思うように 生きてみたい。

       

       そうすれば 後悔しない気がする。

      それって ワガママかなぁ。

      でも それで 良いよね。

       

       素直に生きたいと 私が思うから。

      自分を 信じようかな。

      沙希の分まで・・・・・・ウウン、いや沙希と一緒にだな。

      沙希がいてくれるから 幸せになれる気がするよ。

       

      ありがとう 沙希。

       

       


       

       

       

       

       

       

       

       

      辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  16 雪洞の灯りに 照らされて

      2018.06.10 Sunday 09:20
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         最終章  続編   雪洞の灯りに 照らされて

         

         翌日の夜、山田さんが翔ちゃんのお世話をしている時、翔ちゃんの部屋を覗いた。

        そして、山田さんに早川君のお母さんと食事をした事や浩太のバレンタインデーチョコを、

        作った事を報告した。

        早川君のお母さんは、良い人だった事を強調した。

         

         山田さんは、しなやかな手で、翔ちゃんのマッサージをしながら、

        黙って聞いてくれていた。

         

         早川君のお母さんは、最初苦手だったけど、本当は優しい人でしたと付け加えると、

        「そう。ありがとう」

        自分が褒められたかのように、嬉しそうな顔をして、ニッコリ微笑んだ。

        その時、私は感じた。

         

         私が、早川君のお母さんに心を開いたのは、山田さんが信頼している人だったからかもしれない。

        ・・・・・・だからなんだ。

        お母さんは、こんな人だと思ったのは。

         

         よく子供は、自分の母親が仲良くしている人に対して、

        「この人は信じられる」と察知する能力があるらしい。

        それと同じ感情だったかもしれない。

         

         翔ちゃんは何か言いたそうな感じだった。

        それが言えずに、人工呼吸器のアラームが鳴った。

        山田さんは、持続吸引を変えたり洗浄したり、マスクの位置を変えたり、

        頭の位置や体位をかえたりしていた。

        翔ちゃんの唾液が粘調性が増してきている。痰も多く粘稠になってきている。

         

         翔ちゃんの持続吸引チューブの詰まりが、頻回になってきたので、

        ネブライザーを定期的に使用して良いのかを、早川先生に確認するように言われた。

        山田さんは、翔ちゃんの呼吸状態安定させようと、

        持続吸引のチューブに水を通したり、口腔ケアを丁寧に行ってた。

        「はい。指示を貰っておきます」

        「お願いします」

        「あの私、明後日まで有給なので、明日の夜変わりましょうか?偶には、休まれてた方が・・・・・・」

        「私が休んだ方が何?良いの?」

        「・・・・・・いいえ・・・・・・そうですね。すみません」

        山田さんは、私の顔を見ず、何処かへ行った。

         

         そして、翔ちゃんの尿が入っている尿バッグを、捨てるバケツを持ってきた。

        ベッドの脇に下げている尿バッグの栓を開け、尿をバケツの中に入れている背中は、

        私の答えを待っている感じだった。

        「山田さんも休まれた方が良いと思いますよと、そう言うつもりで言いました。語尾を濁したのは・・・・・・」

        山田さんは、バケツの中に尿を入れ終わっているのに、まだ、じっと待っている。

        「それは私の曖昧な思い込みで、山田さんに取って、

         良いのかどうかわからないという事に、途中で気づきました。山田さんの望んでいることは、分からないのに」

        山田さんは、尿が入っているバケツを持ち、立ち上がった。

        「そうだったのね。ありがとう。でも、良いの。これが、私の幸せなの」

        山田さんは、凛とした態度の中に、可憐な女性の表情を浮かばせた。

        「人の思いがわからないのに曖昧な言葉はただの思い込みに過ぎない」

        「はい」

        私は返す言葉もなく納得した。

        「ねぇ。翔太」

        山田さんは、愛らしさと憂いが入り混じった様な女らしい艶を漂わせながら、翔ちゃんに微笑んだ。

        この時間は、山田さんにとって唯一翔ちゃんを独占できる時間。

        その時間があっても良いと思う。

        私はこれ以上、この場にいてはいけない気がした。

        私は小さい声で、お邪魔しましたと頭を下げたまま、静かに翔ちゃんの部屋のドアを閉めた。

         

         翌日、翔ちゃんのネブライザーを、適宜行って良いという指示を貰う為に、

        早川先生へ電話をかけた。

         主治医への報告の際、利用者にとって必要な指示を貰える様な情報とその必要性を強調した

        報告して報告をする。

        早川先生は、ネブライザーを、適宜行って良いという指示を出してくれた。

         

         その後、言葉を濁しながら、「チョコありがとう」と小さな声で照れ臭そうな声が聞こえてきた。

        一瞬、何の事だか分からず、エッ?と聞き返した。

        「お礼はちゃんとするから」

        「いいえ、お礼なんて、とんでも無いです」

        (だって、私は、早川君にチョコなんて渡していないんだから。)と言おうとして飲み込んだ。

         

        あっ、そう言えば・・・・・・やられた。

        あの時、早川君のお母さんが、これはトックンの分ねとか言っていた。

        まぁ〜、良いか!私が渡した訳でもない。

        早川君のお母さんが渡したものだし、浩太の残りのチョコだったんだから。

        気にしないで、スルーしよう。

         

         それにしても、早川君のお母さんは、面白い。

        あの天然振りが堪らない。

         

         浩太は、折角作ったチョコを一口食べた後、苦そうな顔をして、舌をベロンと出した。

        私と舞も食べてみた。

        「ニガッ!これはムリでしょう。大人の味

        浩太の嫌そうな顔を見て、2人で笑い転げた。

        一生懸命口の中に残っているチョコレートを、茶色いよだれを垂らしながら、

        ベロを指で擦りながら、掻き出していた。

         

         

         翌日、浩太を送って行った時、早川君のお母さんに、

        「ちょっと苦かったみたいでした」と浩太の感想を伝えた。

        「じゃあ来年は、栗きんとんにしましょう」

        「エッ?どうして、バレンタインデーに栗きんとんなんですか?」

        「あら!だって栗きんとんは、浩太君の好物なのよ」

        「ハハハハッハハッ」

        そんな突拍子もない事を、真顔を喋っている早川君のお母さんが面白くて、

        私は涙が出る程、お腹を抱えて笑った。

        早川君のお母さんのこの天然ツボがたまらない。

         

        それを見て、浩太も早川君のお母さんも笑っていた。

        「今日は、お雛様を出さなきゃならないのよ。忙しいわ」

        「でしたら、今日は休みなので、暇ですから、私が浩太をみます」

        「あら、お暇なの?丁度良かったわ。手伝って頂戴。お雛飾り出すの大変なんだから」

        ・・・・・・確かに暇だけど。

        暇だと言ってしまったから、断る言い訳がみつjからない。

        「アッ、ハイ。お手伝いさせてください」

        (なんでこうなるんだろう。不思議な感じ)

        「浩太君を送り届けた後、一緒にランチをして、それからお雛飾りを出しましょうね」

        とニコニコ満足気な顔をして玄関のドアを閉めた。

         

         私は一旦翔ちゃんの家に戻り、溜まっていた掃除を片付けていたら、

        お昼頃になり、浩太が午前中の早川邸での保育を終え、

        早川君のお母さんに送られて帰ってきた。

         

         私は早川君のお母さんの車で早川邸へ向かった。

        車の中も バラの香りがした。

         

         この香りが私には心地よく、早川君のお母さんの印象をよくしてくれた。

        香りは人と接する時のマナーとして必要な要素かもしれない。

        強い香りは不快感として残るが、ばらの香りは女性の彩の一つかもしれない。

         

         

         私の家には、雛人形が無い。桃の節句もなかった。

        沙希の家に飾っていた雛人形を、別に欲しいとは思わなかった。

        他の人形にも興味が無かった。

         

         だけど、早川君のお母さんと飾った雛人形のお内裏様の2人の顔は、

        とても綺麗で、桃の花が似合っていた。

        雛飾りの雪洞の灯りが、雛祭りを艶やかに照らし、官女たちはそれを祝っている。

        なんて優雅なんだろう。

         

         雪洞の灯りが 丸いから 内裏雛の凛とした表情を、 

        穏やかな気品として映し出し 私達にそう思わせる様に見せている。

        灯りは、丸い方が良い。

         

        手と手をつなぎ合わせた丸い円は、安らぎを与えてくれる。

         

        私は、ひな壇の前に座り、しみじみそれを感じた。

        そして、日本の女性である事を誇りに思った。

         

         ひな壇飾りは、夜遅くまでかかり、早川君も手伝ってくれて、その後、翔ちゃんの家まで、

        送ってくれた。

        翌日も同じように、暇を宣告した私は、ひな壇飾りを、早川邸で行なった。

         

         そして、桃の節句の日、雛祭りを祝う食事に招いてもらった。

        その日、どういう話の流れで、そうなったのかは覚えていないけれど、

        私は日曜日、早川邸で、全く興味がない、茶道と華道と着付けを、習う事になってしまった。

        「これは女性としてのマナーです」

        確かに、マナーですが・・・・・・。

        「着付けを習っても着物なんて、着ることはないと思うんですけど」

        「着物の畳み方、着物のお手入れ、知らないより、知っている方が素敵だわ」

        「確かにそうですね」

        「日本人の文化は残しておきたいじゃない」

        「だから、お庭に竹なんですね」

        「良いでしょう。あの竹の下に、苔を生やしている所なの」

        「はい。良いですね。何だかとても、癒されます」

        「それは嬉しいわ。じゃあ、来週夕食を用意するわ」

        「来週ですか?」

        どうして日本文化から、食事を食べることとに結びつくんだろう。

        さっぱり、分からない。

        しかも、また。来週もここで過ごす事になる。

        「嫌いな物はあるの?」

        「ありません」

        「良かったわ。和食と洋食どちらがお好き?」

        「和食です」

        「そう。何にしようかしら迷うわ」

        「食事のメニューって悩みますよね。私も買い物へ行ってから、決めてる事が多いいです」

        「じゃあ、一緒に作りましょう。お買い物も一緒に行ってね。そうすれば悩まないわ」

        「・・・・・・はい」

        私は、イヤと言えない性格ではないのに、どうして断れないんだろう。

        浩太がお世話になっているからだろうか。

        「楽しいわ。娘が出来たみたいで。トックンはつまらないわ。やっぱり娘が良いわね」

        「でも、早川先生はとてもお優しい方です」

        「そう?嬉しいわ。だったら、あの子も一緒に、付き合わせましょう。偶には親孝行して貰わないと」

        返答に困り、笑って誤魔化した。

        「こうやっていると、貴方も直ぐに忘れるわよ。心の中に置き去りにしている忘れ物を」

        そういう事なんだ。

        これは・・・・・・この人の思いやりなんだ。

        「そうですね。ありがとうございます」

        この人に、カーネーションをあげたい。

        私が一度も送った事がなかった母の日に送るカーネーション。

        嘸かし喜んでくれる事だろう。

         

         早川邸の庭に咲く薄ピンク色のウグイスカグラが、

                  春の訪れを知らせてくれていた。

         

        ねぇ、沙希。

         

        お雛祭りって、楽しいんだね。

        昔は、「子供の遊び」から始まったみたい。

        お内裏様とお雛様ではなくて、2人対で、内裏雛って呼ぶんだって。

        知らなかった。

        女の子のお祭りをしてもらった事が、とっても嬉しかった。

         

        人は一人で生きていけると 意気がっても

        一人では 生きていけない。

         

        心が折れそうな時 それを支える 物あれば

         

        泣き悲しみを   素直に出せる 者となり

         

        泣くことさえも 忘れ去る。

         

        悲しいときは 泣いて感情をコントロールすることも大切。

         

        だけど、切ない感情に 自分を いつまでも 浸らせてばかりいても

        虚しいだけ。

         

        笑いながら 素直に 生きたい。

         

        穏やかに 静かに 過ごせる此処は 

        居心地が良い。

         

        雛人形の唇に 唇を重ねたなら ほのかに バラの香りがしそうな

        女になるのも 良いかもね。

         

        おやすみ 沙希。

         

         

         

        辛いって言えないのが、ツラいよな  最終章  15 バラの香りに 包まれて

        2018.05.26 Saturday 06:50
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           最終章 14 続編  バラの香りに 包まれて

           

           私は、早川邸から訪問看護ステーションへ着く頃には、

          傷を癒して貰ったからなのか、ただの仕事人間だからなのか、

          母の存在を知ったからなのか、自分の居場所を見つけたからなのか、

          訪問看護ステーションの管理者、立花 彩香になっていた。

           

           仕事に追われ、難なく夕方の帰宅時間になった。

          私は、明日から有給になっている。

          だけど、もう休みを取る・・・・・・その必要性もなくなってしまった。

           

          明日の休みは、返上しようかと思ったけど、今更、どうしてその必要性がなくなったのかを、

          他のスタッフから、色々聞かれるのも、面倒くさい。

           たまには良いだろう。

          こんなノープランも。

          それに、結構仕事中、失った大切な物の存在が余りにも大き過ぎて、

          大きな影が私を暗く追い込もうとしている。

          それを跳ね除けて消し去り、平然としているのが、実は結構シンドイ。

           

           他のスタッフに、「明日から宜しくお願いします」とだけ言って、車に乗った。

          朝降っていた雪は、もう降ることも許してくれない。

          優との思い出が深い白い雪。

           

           神様は私に、雪さえも与えてくれないのだと、フッと笑えた。

          もし、雪が積もっていたなら、私の心の中にも、思い出と悲しみが、積もっていた気がした。

           

           今朝、早川君のお母さんから、「仕事が終わったら来るように」と言われていたので、

          翔ちゃんの家へ戻らず、早川邸へ車を走らせた。

           

           翔ちゃんと舞には、優のことはまだ言えない。

          必要以上の心配を、翔ちゃんにさせるのはご法度。

          精神状態は、呼吸状態と関連性が高いから言えない。

          翔ちゃんに ツラい話を背負わせるのは出来ない。

          翔ちゃんは もっと辛いのに、ツラいって言う言葉。

          それを言えない。

           

           道路や訪問看護ステーションの近くに、雪が降っていた跡さえないのに、

          早川邸の竹の間には、雪が残っていた。

          それが、風に吹かれながら、サラサラと飛ばされていた。

          早川邸の駐車場にあるオレンジ色の灯りが、それを、キラキラした光のように映し出している。

           

          ・・・・・・綺麗。

           

           思わず見とれて、その光を追った。

          キラキラした雪は、風に吹かれて、スゥーと暗い地面へ、ヒラヒラ舞うように落ちて行った。

          キラキラしていた雪は、見えなくなり、キラキラした光が消えてしまった。

          「もう雪を追うのはやめなさい」とでも言われている気がした。

           

           終わりを駄目押しされた気がしてきた。

          (分かっているわよ)

          そう思いながらも、なんだか切なくなり、

          welcomeで待ち構えてくれている外灯に照らされた明るい玄関の方へ向かった。

          なんだか恥ずかしい気もするなぁ。

          今朝、何となく自分のことしか見えていなかったから、失礼はなかったかなぁ。

          玄関チャイムのボタンを押そうか帰ろうか迷い、

          人差し指がチャイムに着くか着かない程度で暫く止めたままでいた。

           

           それにしても、いつも思っていたことだけど、ここの玄関チャイムは変わっている。

          鳩時計の鳩が出てくる所に、インターフォン付きの玄関チャイムが設置されている。

          何か意味でもあるのだろうか。

          家の中から「綾さんは仕事がまだ終わっていないのかしら?緊急かしら?来てくれるわよねぇ」

          早川君のお母さんの燥ぐ声が聞こえてきた。

          (待っていてくれている。しかも楽しそうに)

           

          私は、鳩時計の中にある玄関チャイムに向かって、人差し指を勢いよく突きつけた。

           

           玄関のインターフォンから、「ハイハイ、どうぞ」と早川君のお母さんの声がした。

          あんなに今朝、惨めな姿を見せたのに、いつもと変わらない声を聞いて、

          どうしてだか、ホッと安心した。

          「あらあら、寒かったわよね。中にお入りなさい。どうぞ」

          「はい。お邪魔します」

          いつもなら、こんな時、玄関先で、今朝のお詫びを言って直ぐに帰る。

          それなのに、靴を揃えて、案内されるがまま、早川君のお母さんについて行った。

          断る理由がない。

          今は ここに 居たいから。

           

           今朝は、バラの香りがしたのに、家の突き当たりから、ラベンダーの香りが漂っていた。

          私は香りのする方へ、視線を向けた。

          「アッ、そこがトイレね。おトイレは大丈夫?」

          「はい。大丈夫です」

          トイレの心配までしてくれるなんて、子供じゃあるまいし。

          でも、それが嬉しく思え笑った。

          「夕食を一緒に食べてね。それから、浩太君のチョコを一緒に作りましょう」

          「あのぅ、でも、私が一応翔ちゃんの家の食事当番なので」

          「あらっ!大丈夫よ。浩太君を送って行った時に、舞ちゃんに言っておいたから」

          「えっ?そうなんですか。すみません」

          「私が作った物は、美味しくないかもしれないけど。あら、もしかしたら食べたくない?」

          「いいえ、食べたいです」

          「そう?良かったわ。これ運んでね」

          「はい」

          ・・・・・・さすが、山田さんと30年の付き合いがあるはずだ。

          このペース、似ている。

           ”人にこう言わせる話術 ”を知っている。

          「アッ、その前に、手を洗っても良いですか?」

          「そんな事遠慮なさらずに、どうぞ。それから、これね。お洋服が汚れたら大変だから」

          私は、濃いグリーンの胸元に、ダーツが入っている変わったデザインのエプロンを渡された。

          「これ、可愛いですね。素敵です」

          「そうでしょう。それは私のお気に入りなのよ」

          「そうなんですね。ありがとうございます」

          「早く手を洗ってきて、準備しなきゃ、トックンが帰って来るわ」

          「トックンですか。ハハッハハハッ」

          「あら、可笑しい?可笑しいでしょ。全く恥ずかしいわねぇ。もう大人なのにねぇ」

          「いいえ、良いと思います」

          「そう?じゃあ、綾さんもトックンって言ってみたら?」

          「えっ、それは無理です。早川君は先生なので」

          「あの子は、お役に立っているのかしら?ご迷惑をお掛けしていないかしら?」

          「早川君は優秀な医者です」

          私は、お母さんから、背中をバシッと叩かれた。

          (痛っ!)

          お母さんは嬉しそうに笑いながら、

          「それは、嬉しいことを。ありがとうございます。美味しいデザートも付けるわね」

          私は、幼い頃、毎日母親から、酷く攻撃的な事をされてきたおかげで、

          他の人よりも、自己防衛機能が優れているのか、攻撃的な人は、直ぐに察知できる。

           

           多分、他の人よりも、天性な物だけど、5感が敏感に反応する。

          今朝私は、早川君のお母さんに対して、安心できる人だと認識していた。

           

           お洒落なエプロンをつけて、食事の準備をしていたら、早川君が帰って来た。

          「玄関の鍵が開いたままだったよ。全く不用心だなぁ」

          「アッ!それ私です。すみません。お邪魔しています」

          「あら、良いのよ。そんな事気にしないで。他人行儀な」

          (・・・・・・いヽえ、他人です)と心の中で呟いた。

          お母さんが言った”他人行儀な”という言葉のニュアンスと、声のトーンが、

          心地よく、親しみ深く、癒すような感じで、私の耳に伝わってきた。

           

          家族でも無いのに、家族みたいな事を言って・・・・・・くれた。

           ” あなたは 一人じゃないのよ。私がここにいるから ”

          そう思ってくれている気がした。

           

           早川君は、照れ臭そうな顔をして、洗面所で手洗いをしてから、

          同じリズムで静かに10段位ある階段を上がり、

          普段着に着替えてから、登った時と同じリズムで階段を降りて、リビングに座った。

          私がきていることに対して、特に動揺も気持ちの変化もなさそうで安心した。

          変に意識されると居心地が悪い。

          こんな感じの普通が良い。

           

           早川君のお母さんが、トックンと言っているのを聞いて、吹き出して、

          笑い転げそうになったのを、

          必死に我慢しながら、夕食を囲んだ。

           

           それから、夕食の片付けを終え、浩太用の手作りチョコを、お母さんと一緒に作った。

          それを見て早川君は、私と目を合わせようとせず、照れ臭そうな顔をして、

          部屋に居るからと、お母さんに声を掛け、階段をゆっくり登る足音がした。

          何かを言いたくて 迷っているような足音がする。

          「明日、お仕事なのに、ごめんなさいね。付き合わせて」

          早川君の気持ちを知ってか知らずか、マイペースなのか?

          早川君のお母さんは自分の波長だけしか捉えて居ない感じだった。

          「いいえ、手作りチョコを作った事が無かったので、嬉しいです」

          「チョコは嫌いなの?」

          「いいえ、チョコは好きです。でも、バレンタインにチョコレートを渡した事が無くて」

          私は、誰にも言った事がない話を、あまり知らない人にしている。

          それも、理事長の奥様に、

          しかも、こんなにすんなりと。

           

          おかしい。

          私・・・・・・変だ。

          「あらっ、それは淋しいわねぇ。でも、良かったわ。はい、これはトックンの分ね」

          「こんな風に、早川先生にも、毎年作っているんですか?」

          「そんな事しないわよ。面白い人ね」

          (いいえ、貴方の方が余程面白いキャラです)と心の中で笑っていた。

          私は チャップリンが大好きだから、この人のこのキャラは面白くてハマった。

          「デザート食べるお時間は有る?まだ、お若いから大丈夫よね。でも、ダメかしら」

          ダメかしらと言われたら、ダメだと言えない。

          「明日、休みなので、大丈夫です。頂きます」

          「明日、お休みなの?それを早く言って下されば、心配しなかったのに」

          「あぁ〜、そうですね。すみません」

          「嘘よ。冗談。ハハハッハハ。あら?明日、何か用事がお有りなの?どこかへ行かれるの?」

           

          「いヽえ・・・・・・もう、終わったんです」

           

          私は、他人の事に興味が無い。

          そして、自分のことに干渉されるのも大嫌い。

           

           だから、美容院では話しかけないで下さいと担当の人に頼んでいる程、

          干渉されるのが大嫌いだ。

          人はそれぞれに感じることが違う。受け止め方が違う。

          だから、正しく解釈する人だけとは限らない。

          勝手に お客様のことを 悪く思い込むかもしれない。

          よく見てもらいたいとは思わない。

          ただ真実が伝わらないのが ややこしくて 面倒だ。

           

           それなのに、そんな私なのに、私は、この人に、

          自分の事を聞いて欲しいと、言いたくなっている気さえしている。

          「たまにはね。ゆっくりお休みなさい」

          「はい・・・・・・」

          私は、その後の言葉が浮かばず、洗い場で下を向いたまま、

          バターがベットリついた容器を、テッシュで拭き取ってから、洗剤で洗った。

          油分が多いい物を洗う時は、いつもこうしている。

          スポンジがベトベトになると、後が大変だから。

           

          「何かが終わった・・・・・・のね。・・・・・・何かお忘れ物は無い?」

           

          早川君のお母さんは、さっきまでのカラカラした感じとは違い、

          心配そうな顔をして聞いてきた。

           

          「エッ?忘れ物ですか?どこにですか?」

           

          「ここよ」

           

          私は、お母さんから、心臓の上を3回ポンポンと叩かれた。

           

          「言い忘れ、伝え忘れ、渡し忘れ、消し忘れ、捨て忘れとか」

           

          母性本能が優れている女の勘は鋭い。

           

          私は、キッチンに立って居られなくなり、全身の力が抜けて、そのままそこに、

          しゃがみ込んだ。

           

          「・・・・・・忘れ物は、どうしたら良いですか?」

           

          「今はまだ、残しておきなさい。そのうち、忘れ物をしていることも忘れるわ」

           

          「忘れ物は残しておいて良いんですか?」

           

          「残しておきなさい。誰も貴方の思い出の邪魔はしないわ」

          「まだ現実かどうかさえ分からなくて、忘れ物なら捨てたい気もします」

          「それは まだ 後でいいのよ。この次誰かを好きになった時に、

           忘れ物が多くて辛かった事を思い出してくれるわよ。

           今度は 素直に 正直に 純粋な恋愛をしたいと思うはず。それで良いのよ」

          「痛みを負ったから、今度は純粋に 素直になろうとする。その時かな忘れ物が消えるのは」

           

          この人は、どうして、私の心を攫っていくのだろう。 

          残っている物を消し去るように。               

           

           

          ねぇ、沙希。

          これが、お母さんなんだね。                

           

          強く居なければならないと思ってきたのに、

          強く無くても良い。弱い自分を見せても良い。

          自分の思いを受け止めてくれる。

           

          それが、家族なんだね。

           

          今宵は、早川君のお母さんと同じ香りがするバラのアロマオイルに包まれて。

           

          沙希、おやすみなさい。

           

           

           

           

           

           

           

           

          辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  14 バラの如く 

          2018.05.26 Saturday 06:48
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            最終章   

             

             粉雪舞い散る灰色の下、私は浩太を乗せた車のヒーターを、マックスにした。

            ゴゥーと強い風が、後ろのチャイルドシートに座っている浩太の髪を、

            ボサボサにしているのが、バックミラーに映っていた。

            「ウワァー」

            ヒーターの強い風で、浩太の目や口にグジャグジャに髪が張り付いている。

            浩太はそれを小さな手で、嫌そうな顔をしながら、しきりに払いのけている。

             

             私は、一瞬、嫌がっているのに、イヤだと言えない浩太の事を、

            ・・・・・・不快感を味わらせたまま、放って起きたくなった。

             

             浩太を虐めたいわけではなく、痛みを味わっているのが自分だけではないと思いたかった。

            自分だけ 辛い思いをしているような気がした。

            これ以上 私だけ 追い込まれていくと 何をするか分からない。

            それが怖くなった。

             

             隆弘から、いつか言われたことがある。

            ”ヤケを起こすなよ”

            そう。

            私は時々こんな風に 考えるのが嫌になって

            自分が嫌になって 

            何もかも どうでも良いと思い、

            全部・・・・・・何もかも捨てても良いとさえ思ってしまう。

             

            やけを起こしてしまう。

            やっぱり・・・・・・だから・・・・・・私は・・・・・・駄目な人間なんだ。

             

             現実を現実だと、受け止めなければならない怖さに、目を背けたい。

             

            だけど、逃げることは許されない。

             

            私の他に 誰も解決してくれる人はいない。

            自分のことは自分で解決するしかない。

            だけど、私はそんなに 強い性格ではない。

             

            ・・・・・・でも私は、一人じゃない。

            スタッフの家族の生活まで背負っている。

             

             だから逃げられない。

             

             車のハンドルを意味もなく、ドンドンと2回叩いた。

            「もう、私には、心がないの」

            そんな風に叫んで訴えることが出来たら、どれだけ楽になるだろう。

             

             でも それさえ 出来ない。

            そんな勇気すらない。

             

             自分の心がフワフワと 風船が飛ぶように 飛んでいけたらと思ったことがある。

            しかし、今はそんな想像すら出来ない。

            違うことを考えようとしても 何も浮かばない。

            悲しい表現すらできない。

            涙さえ もう 消えて無くなってしまった。

            本当に悲しい時は 泣けないものなのかもしれない。

            現実として 認識していないのか 認識しているのか

            嘘のような 夢のような 想像している世界なのかも分からない。

             

             ただ、無意識に 車が 道路を走っている。

             いつも 見て来た 海が・・・・・・見える。

             

             翔ちゃんの家の坂道を下り、海沿いのカーブを曲がった時、灰色の雲の隙間から、

            一筋だけ、太陽の光が眩しく、大きな海を照らしている。

             

            それを見て、叫びたくなった。

            私は 自分をコントロールできなくなっている。

            怖くなって来た。

            海が段々大きく見えて来た。

            海の中に 飲み込まれそうな気持ちになって来た。

             

             粉雪が舞う北風に 黙って従っている波。

            波は 心 穏やかなのに・・・・・・。

             

             真っ黒い大きな波が、私を飲み込もうとしているように見える。

            「お前を飲み込んでしまうぞぅ〜」と脅かしているように感じる。

             

             灰色の空の下で 波は静かに 大人しくしているのに・・・・・・。

             

             

            足が震えていて、アクセルを踏めているのかさえ分からなくなってきた。

             

             優と2人並んで歩いた海岸沿い・・・・・・。

            ここにあるのは 想い出だけ・・・・・・。

            もう・・・・・・居ないんだ。

            もう・・・・・・消えたんだ。

             

             私は 防波堤に突っ込んでしまいぞうになり、

            思わずブレーキをかけて車のエンジンを停めた。

             

             運転席のウインドーを下げると、冬の冷たい風が、ヒューヒュー吹いて、

            私の頬を痛いくらい突き刺してきた。

             

             冷たい風のせいか、目尻から熱い物が、スゥーと冷たい頬を伝って流れ落ちている。

            私は、それを拭こうともせず、海をボゥ〜ッと見ていた。

            「タ・ム・イ」

            窓から冷たい風が、小さな浩太の顔をあしらっている。

            浩太は、それをイヤそうな顔をして、髪を払い除けていた。

            「タ・ム・イ!」

            浩太が、私の右肩を揺さぶった。

             

             私はその手を払いのけようと、浩太の手に触れた。

             

            ・・・・・・手が冷たい。

            こんなに・・・・・・冷たくなっている。

             

             私は、右肩に置かれた小さな手を、両手で握りしめた。

            私は、小さい。

            浩太の手より、私は小さい人間。

             

            僅かな隙間から、海を照らしている太陽のように、

            今は 一筋も 光り輝いていない。

             

             でも、人として、惨虐な行為だけはしたくない。

            例え、私に心が無くても。

             

            浩太に 罪はない。

             

             車のエンジンをかけ、温風ヒーターを弱め、風向を下げ、浩太にかからないようにした。

             

             訪問看護ステーションの前を、通りかかった時、

            我に返り、私は浩太に助けられたと反省した。

             

             早川病院がある坂道を登る途中に、早川邸がある。

            その敷地を隠すように、高い塀が囲んでいる。

             

             庭には、八重櫻の木と竹が調和良く並べられている。

            バラ園のように植えられた椿の花路。

            もうすぐ椿が花を咲かせようとしている。

             

            由緒ある家柄を象徴したような趣のある早川邸の駐車場に車を停めた。

             

             私は、バックミラーを見て、自分の顔を確認した。

            ・・・・・・汚い。

            私は不幸です!っていうような、つまらない顔だ。

             

             テッシュで涙を抑えた。

            お化粧には興味がない。

            いつもスッピンだから、こんな時、楽で良い。

             

             私は、静かに目を閉じた。

            トン・トン・トン・トン。

            心の中で、木魚を叩いてリズムをとった。

            トン・トン・トン・トン。

             

             深呼吸をして、バックミラーに映った自分に言い聞かせた。

            「 私は、もう優のことを想い慕う、立花 彩香ではない。

              私は、訪問看護ステーションの管理者 立花 彩香である」

             

            そう自分に言い聞かせて、運転席から降りた。

            さぁ、モードを切り替えよう。

             

             浩太が座っているチャイルドのベルトを外し、

            荷物と一緒に抱きかかえて、早川邸の玄関のチャイムを鳴らした。

            「ハイ、どうぞ。開いてますよ」

            早川君のお母さんの声がした。

            「あら、今日は寒いわね。早く中に入って。雪が降っているのね」

            私が荷物を持ったまま、浩太を抱いていたのを見て、

            早川君のお母さんは、浩太を抱こうと、浩太の方へ両手を差し出した。

            浩太は、何も躊躇することなく、嬉しそうにその差し伸べた手の方へ行き抱きついた。

             

            その時、微かにバラの香りがして、フッと、背中に伸し掛かっていた物が軽くなった。

             

             私は泣いていた赤い眼を、見られないように、下を向いたまま、

            挨拶もろくにせず、早川邸の家の中に繋がっている玄関先に、荷物を置いた。

            「浩太君は、チョコ食べても大丈夫なの?」

            こんな時に、話しかけないで欲しいのに・・・・・・。

            「あぁ〜はい。少しなら」

            「アラッ。それは嬉しいわぁ〜。浩太君にチョコを作ろうと思って」

            「そうですか。では、お願いします」

            私は、忙しいんです!っというオーラを、有り有り出して、アピールした。

            何をお願いするのか、これじゃぁ、ちっとも分からない。

            「綾さん美味しいものを、一緒に食べましょ。誰にも愚痴一つ言わないのは良くないわ」

            ・・・・・・そう。

            私はあまり愚痴を言わない。

            言えない。

            イヤ、言っても仕方ないと思う。

            言っても仕方ないことは 無駄なことだと自分の中で省いてしまう。

             

             人の悪口も言わない。

            陰口はルール違反なような気がする。

            言っても仕方ない。

            それぞれの考えは その人にしか分からないのではないか?と思うからかもしれない。

             悪口を言うと、悪口の輪が広がる。

            それを集う輪を作りたくはない。

            悪口を言う集まりなんて必要ない。

            だから、私は悪口に賛同しない。

            黙って傾聴しているだけ。

            だから、私に誰かの悪口を囁く人はあまりいない。

            言っても乗ってこないから、面白くないのだと思う。

            人の悪口を口癖のように言っている人は、信用されない。

            自分のことも そうやって他の人に言っているのではないかと思われるはず。

             

             人から信用を得るためには 人の悪口は 言わない。

             

            これも 私のモットー。

             

             

             早川君のお母さんは、抱いていた浩太を、廊下の所に座らせて、

            ニコニコ笑いながら忙しくではなく、優しくしなやかな感じで靴を脱がせた。

            (・・・・・・心地よい。それに・・・・・・手や指が綺麗に見える)

            私は 早川君のお母さんの手を見つめた。

             

             手って意外と、自分の心が伝わるものなんだ。

             

            浩太は自分の家へ入る様に、遠慮もせず、早川君の家の中へ入っていった。

            「アラアラ、トックンお願い。浩太君がそっちへ行っちゃったわよ」

            「ハイハイ。居るから大丈夫だよ」

            早川君の声がした。

            トックン?トックンね。確かに、俊博という名前は言い難い。

            「綾さん。管理者がお辛いんじゃないの?」

            「・・・・・・いいえ、別に」

            するどい!

            多分私の顔・・・・・・イヤ、体全身に負のオーラが出ているんだろう。

            これ以上何か聞かれたら、正直になんでも話してしまいそうで怖い。

             

             これ以上、そんなに他人の事を、詮索しないで欲しいと、

            早川君のお母さんに嫌気がさした。

             

             そんな風に、心の中で思っていた。

             

             それなのに、それなのに、そんな私を強く抱きしめて、

            「泣きなさい」と言ってくれた。

            泣きなさいって言われても、泣きたい事なんか・・・・・・。

            悲しい事なんか・・・・・・ある。

             

             早川君のお母さんの首辺りから、バラの香りがフワァと漂ってきた。

            ・・・・・・あったかい。

             

             私の冷たくなっていた耳に、優しく手を当ててくれた。

            「ここでは、我慢しなくて良いのよ」

            私は、何に対して頷いたのか、自分でも良く分からなかったけど、

            優しく触れられたお母さんの手に持たれる様に、コクンと頷いた。

             

             この人のこの声のトーンは 本心だ。

             

            ・・・・・・あったかい。

             

            ・・・・・・これが、母の温もりなの?

             

            これが、母の優しさなのかもしれない。

             

            これが、お母さんと言う存在なんだ。

             

            お母さんって、あったかい。

            心の中で呟いたお母さんという言葉をかみしめた。

             

             

            私は、プラント下げていた両手を、お母さんの背中に触れ、温もりを感じた。

             

             その時「お母さん!浩太君が・・・・・・」

            早川君の声が聞こえた。

             

             ”お母さん”と呼んだそのイントネーションの所に、

            深みを感じているのが伝わってきた。

             

             バラの香りがほのかにする。

            バラの香りと お母さんと呼んだ早川君の声が 

            私の中で 一体化した。

            同律だ。

            心地よい。

             

             お母さんかぁ。

            私は 愛情を持って、お母さんと呼んだ記憶がない。

             

             言いたいことが沢山ある。

            話したいことが 沢山ある。

            でも、誰を信用して良いのか分からない。

            だから、いつも 自分一人で 抱え込んでしまう。

            それを 言える場所。

            それが 此処だと信じて良いのかもしれない。

            ここだと 信じたい。

            ここだと 信じる。

            私の話を 他の人に言わず、話せる場所は ここにある。

             

            お母さん、悲しい事があったの。

            私の一番大切な物が、無くなったの。

            私は、ひとりぼっちになっちゃたの。

            だから、・・・・・・寂しいの。

             

            心の中で、言葉を並べながら、” お母さん ”と呼ばれている人に抱きついて、

            抑えていた悲しみを、全部吐き出しそうになった。

             

            こんな時、こんな風に、優しくされたら、崩れ落ちてしまいそう。

            「今日は、お仕事が終わったら、ここへ来なさい。一緒にチョコを作りましょ」

            早川君のお母さんは、目に涙を浮かべていた。

            こんな私の為に、泣いてくれている。

             

            それなのに、自分のその気持ちを消し去る様に、ニッコリ笑って、

            「美味しいものを食べれば、元気になるわ」

            と元気よく、強いトーンで励ますように言ってくれた。

             

             私は顔を上げて、お母さんの顔を見て、ニッコリ微笑みを返した。

            廊下に、早川君が浩太を抱いて立っているのが見えた。

            早川君に抱かれている浩太が、

             

            「アァ〜タン」と大きな声で、私の顔をみて指を立てている。

             

            (私は さっき 浩太に 酷いことをしたのに・・・・・・ごめんなさい。浩太)

             

            「うん。泣かない約束・・・・・・ね」

             

            浩太の出した小さな指に、人差し指を差し出して、浩太と泣かない約束をかわした。

            泣かない約束は 仲直りのサイン。

            「綾、行ってらっしゃい」

            早川君が、そう言ってくれた。

             

             玄関の隙間から、冷たい北風が、スゥースゥーっと入ってくる寒い玄関に、

            私を守ろうとしてくれて居る人の温もりが、私に吹きかかる寒さを、遮ってくれた。

             

             さっきまで 黒い波に 襲われそうだった私を

            バラの香りが 今見える景色を ピンク色にしてくれている。 

             

             

            ねぇ、沙希。

             

             私の 居場所は ・・・・・・もしかしたら 

             

                        ここなのかも しれないね。               
             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

             

            辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  13 心が溶けて 無くなれば

            2018.05.21 Monday 21:31
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               最終章 12 続編   心が溶けて 無くなれば

               

               2月に入り、耳が痛くなる程、冷たい風が吹いていた。

              私は、優に会うために、飛行機とフェリーの予約を入れ、旅行用のカバンに、

              荷物を入れて、服と服の間に、指輪の入った袋が、破れないように大切に包み込んだ。

               

               2月12日、ルンルン気分で、仕事を終え、夕飯の準備をして、浩太とお風呂に入り、

              浩太と一緒に食事を摂った。

               

               舞は少し風邪気味だと寝込んでいた。

              舞の部屋へ鍋焼きうどんを持っていき、今日は私の部屋で浩太は眠るからと声を書け、

              ドアを閉めた。

              「今日は綾と眠るんだよ。だから、絵本を読んであげるね」

              「マンマァ〜」

              浩太は、2階で眠っている舞の所へ行こうとした。

              「ママは、眠っているから、シィ〜ね」

              秘密の魔女みたいな怪しい顔をして、人差し指を立て

              「綾と浩太のヒ・ミ・ツのお話。だから、シィ〜」

              「アァ〜と、シィ〜」

              浩太は邪気の無い顔で、ちっちゃな人差し指を立て、私の真似をして言った。

              子供は、人を陥れようとする攻撃性がない。

              そう、子供は邪気が無いから可愛い。

               

               みんなが、私の事を ”あや” と呼ぶので、

              浩太も私の事を ”あや ”と呼んでいる・・・・・・つもりだと思う。

              だけど、聞こえてくるのは ”アァ〜 ” だけ。

              だけど、それもまた可愛い。

              「そう、良い子は、シィ〜だよ」

              私は浩太の仕草が可愛くて、また人差し指を立てて、

              意味はないのに、意味深な顔をして見せた。

              「シィ〜」

              と浩太は秘密のお話でもしているかのように、

              頷きながら人差し指を立てて言った。

               

              可愛い。

              どうしてこんなに子供は素直でいられるのだろう。

               

               しかし、面白くて何回もさせていたら飽きたのか、また、2階へ行こうとした。

              慌てて浩太を抱いて、洗面所に行き、歯磨きを開始することにした。

              お休みの時間だと理解してもらわなければならない。

               

               浩太の好きなアンパンマンの絵が書いてある歯ブラシを手に取って、

              「浩太、お休みの前の歯ぁみぃがぁきぃ」

              浩太は私が手に持ったアンパンマンの歯ブラシを見て、嬉しそうな表情になり、

              アンパンマンの歯ブラシと私を交互に見ては笑っている。

              (アンパンマンさま様だわ)

              左手に浩太を抱えながら、浩太の歯磨きを開始した。

               そして、オーバーリアクションで、鏡を見ながら

              「ガラガラ〜ペッ!」

              と言うと

              「ペッ」

              と、私の真似をした後、私の顔を真剣に見ている。

              「そう、眠る前は、ガラガラッペをするのよ」

              私は水を口に含んで、「ガラガラガラ」と言った後「ぺッ」と言いながら、

              水を出して、嗽を教えた。

              浩太も真似をして、同じようにしてくれた。

              「さぁ眠ろうね」

              浩太は大きく頷いて私の胸に頬を寄せて項垂れている。

              浩太は、舞のところへ行くのを忘れたのか、諦めたのか、

              舞のところへ行こうとせず、お休みの時間だと認識してくれた。

               

               浩太はベッドへ寝せると、私の読み聞かせを聞く間も無く、スゥスゥ眠ってしまった。

              私も、その癒される寝息を聞きながら、ウトウトしていた。

               

               その時、個人用の携帯電話が鳴っている音がして、

              半分寝ボケているまま、着信ボタンを押した。

              優と書いた名前が、携帯電話の画面に出ている。

               

               珍しい。

              電話が嫌いな優が電話をかけてくるなんて。

              携帯電話の画面に、この名前が出て来ただけで、嬉しくなる。

              元気になれる。

              ドキンと胸が踊る。

               

              そんなあったかい名前が表示されている携帯電話から聞こえてくる声が、

              よく聞こえる様に、両手で持って耳に当てた。

              「どうしたの?」

              「あっ、綾。ゴメン。すまん。ここに来るな。イイな。来るなよ!」

              「何かあったの?」

               

              「別に無い。じゃあ、そういう事だからっな。元気でな」

               

              「・・・・・・急にそんなこと」

               

              「ウルサイ!俺は、昨日そう決心したんだ。色々聞くな!わかったな。じゃあな」

               

              ブツッ。

              (それだけ?それって何?・・・・・・)

              優は自分の言いたいことだけを言って、電話を切られた。

               

               私は、今自分の耳の中に聞こえてきた言葉が、ボンヤリと雲の様に、頭の上でフワフワと浮いていた。

              ・・・・・・多分 今のは夢。

               

               もしかしたら、「バカ!今のは冗談だぞ!」って言う電話がかかってくるかもしれないと、

              携帯電話を握りしめたまま、私の横で、スゥスゥ〜寝ている柔らかい浩太の体を抱き寄せて、

              浩太の寝間着を濡らした。

               

               これって「さよなら」ってこと?終わりってこと?

               

              ・・・・・・ここに来るな。

              ・・・・・・ここに来るな。

               

               その言の葉の唄は、悪戯でもしているみたいに 

               

                 ずっと同じリズムで 繰り返し 繰り返し  消える事なく 鳴っていた。

              (もう!ひどすぎる!)っと優に腹を立てたり、

              さみしいから悲しいから会いたいと思ったり、

              こんなに好きなのに、どうして通じないんだろうと思ったり、

              優の嫌いなところを探そうとしたけれど、見つからず、

              ただいつも家族のように私を心配してくれたお守りみたいなあの背中が、

              目に焼き付いて離れない。

               

               優はとても意地悪だと思う。

               優のそばにいるだけで 私は幸せな気持ちになれるのに・・・・・・。

               もう、優のそばへ 行くことができない。

               

               こんなに 私を 悲しくさせるくらい好きにさせて・・・・・・どこかへ逃げちゃった。

               

               カーテンの隙間から、暗い部屋へ 夜がしらじらと明けたのが見えた時、

               

               昨日の夜の出来事は、現実だったのと実感した。

               

               冷たい携帯電話を持っていた手が振るえて来た。

               

               暫く、頭の中が真っ白になっていた。

               

               冷たい携帯電話のすぐ側に、浩太の小さな可愛い手が並んでいた。

               

               この可愛い手は 私の物じゃない。

               

               私は、また、一人ぼっちになっちゃた。

               

               仕事も休んで、どっかへ逃げたい。

               

               どこかへ 行きたい。

               

               優は私の心から どこかへ飛んで行ってしまった。

               けれど、私の心から 優がどこかへ飛んで行く事はないだろうな。

               優のいない時間なんて 来なくて良い。

               

               私への愛情に嘘はなく、純粋に愛してくれた。

               優は不器用な性格だから、何か他に理由があるのかもしれない。

               ・・・・・・でも、それも 何も言わないからわからない。

               

               ただ わかっているのは もう終わりを告げられたんだと言う事実だけ。

               

               それを 受け止めるしかない。

               

               歳を重ねると人を許すことが出来るようになる。

              学んだ人生経験が増え、人の思いを受け止められるようになる。

              一歩下がった所から、人を見てあげられるようになる。

              しかし、老いていくと言うのは妥協することも増えていくものなんだなぁ。

               

               そう思い、ベッドから起きだし、カーテンを開けた。

               

               外には、また、雪が舞っていた。

               

               優と私が幼い頃から、作ってくれた雪だるま。

              それを作っている優の顔。それを私に見せて喜ばそうとしていた優の楽しそうな顔。

              その思い出が鮮明に蘇り、私はカーテンを握りしめたまま座り込んでしまった。

               

               その時、私の袖を引っ張る小さな手が見えた。

              私は思わず浩太を抱きしめた。

               

               そばにいるから 生まれる情とどんなに好きでも離れているから消えて行く情。

              浩太は可愛くて 温かい。

              この子は私の腕の中にいるから温かさを感じられる。

              優の腕の中に 抱き寄せられる事は・・・・・・もう来ないんだ。

              離れているから・・・・・・消えてしまった。

               

               私の心の中で 線香花火の牡丹が 私の許可もなく ボトンと落ちて 

               それを 拾う事も出来ないまま 消えていった。

               

               人の命に似て 急に失う恋  それもまた儚い。

              何も理由を言わない優を攻め立てて困らせることなんて出来ない。

              だって好きだから、嫌われたくないから。

               

               歳をとって一緒にいて、嫌われるのなら、ここでお別れをして

              優が好きだと思ってくれている私の思い出だけを残しておきたい気もする。

              これで、良かったのかもしれない。

              好きだから。

              これで・・・・・・良かったんだ。

               

              私の膝の上に乗っている浩太に小さな声で呟いた。

               

              「浩太、浩太は、アァ〜が箱の中で 捨て猫みたいに 泣いていたら 拾ってくれる?」

               

              浩太は、不思議そうな目で、私の顔を見上げた。

               

              「アァは、・・・・・・捨て猫になりたい」

               

              優がよく言っていた。

              お前は猫みたいな奴だなぁって。

               

              私は、捨てられたネコ。

               

              「誰でも良いからこんな私を拾ってください。

               心が空っぽの捨てネコです。」

              そう看板を置いておきたい。

              心が空っぽだから、何も考えることができないと、看板でも掲げておきたい。

              誰も話しかけて欲しくない。

              何も考えたくない。

               

               何も知らない浩太は不思議そうに、私の顔を見上げて、心配そうな顔をしながら

              「アァ〜、ニャンニャン?」

              「ウフッ、そうね。アァ〜はニャンニャン」

              「ニャンニャン、キャワイイねぇ〜」

              浩太は私の悲しそうな顔を見て、心配してくれているのか、

              私の背中にギュッと抱きついてきた。

               

               抱いていた小さな手の温もりが、背中から伝わり、余計に悲しくさせた。

              「うん。可愛いねぇ〜。浩太の方がネコより可愛いよ」

              「タムイ」

              「タムイ?あぁ寒いね。外は、ほら雪が降ってるよ」

              私は浩太に微笑みながら、カーテンを開けた。

               

               優が作った雪だるは溶けて、また、新しい雪を降らしている。

               

               

               何度、優からこんな風に、さよならを言われたか。

               もう、全部 忘れよう。

               

               雪が降り積もる前に。

               辛くて 積もった雪を 抱えられなくなる。

               

              もう吐くほど 優の仕草や優との思い出が 胸一杯に詰まっている。

              もう 忘れよう。

              忘れるしかない。

               

               私は 優が右手の薬指にはめてくれていた私の誕生石の指輪を外した。

              指輪の跡が くっきりとついて残っている。

              優はこの指輪をはめてくれた時

              「右の指にはめる指輪は、本当に好きな人に送る指輪」

              そう言ってこの指輪を、私の右の指にはめてくれた。

               

               もう これも いらないんだ。

              真実の愛は・・・・・・もうなくなっちゃたんだから。

              もう 終わりなんだから。

               

              もう恋なんてしない。

               

               人を好きになると 傷つくことが多くて 悲しくなる。

              好きな人と 出会わない方が気が楽で良い。

              さようならのための出会いなら もう人を好きにはならない。

               

               でも、私たちは きっと また 合えるような気がする。

               

              それを信じていたいのか その気持ちを消し去る方が自分のためなのか、

              今はまだわからない。

               

               「浩太、ご飯食べるよ。今日はサンドイッチね」

              私は、平然を装う事でしか、現実を見ないでも済む方法が、見つからなかった。

              それに浩太に心配している。

              浩太に罪はない。

              私のショックな惨事に何ら関係もない。

               

              舞にも、翔ちゃんの顔も見ず、そのまま浩太を車に乗せて、早川邸へ車を走らせた。

               

              いつも、楽しく歌っている歌を、浩太が、歌っているのを聞いていたら、

              それが、懐かしい童謡を聞いているような感傷の情に、耐えられなくなってきた。

               

               無邪気に嬉しそうに 大きな声でいつもより楽しそうに歌っている。

              私が泣いていたから、浩太は私を元気にしようとしてくれている。

              (ありがとう浩太。ごめんね浩太)

              でもその優しさが また 余計に私を悲しくさせた。

               

               

                ねぇ、沙希。

              生きているのも、 辛いものだよ。               

               

              忘れよう。

               

              人を好きになることを。

               

              私の心が溶けて 無くなれば 楽なのに。

               

               線香花火の丸い玉の名は 牡丹

              牡丹が 不意に ボトンと落ちて花火が消えてしまったような気がする。

               

               優の思い出も 優の声も 優の優しさも 優の背中も 優の存在すべてが

              牡丹のように 消えてしまえば良いのに・・・・・・。

               

               線香花火の牡丹が落ちて 寂しくなってしまったのは

              私の心だけなんて・・・・・・切ない。

               

               誰にも こんな愚痴を言えない。

              言ってしまうと 現実であるのを実感してしまうのが怖い。

              辛いって言えたなら 楽になるものだろうか。

              辛いって言えずに 胸にしまい込まなければならないのは 余計に辛い気がする。

              誰かに 弱音を吐いてみたい。

              「私・・・・・・辛いの」と。

              でも、それを言っても 誰も 私が負った深い傷を 代わりに負って負ってくれるわけでもない。

              私が 受けた深い傷は 私だけが 痛むしかない。

              どうせなら これ以上無いくらいガラスの破片で、グッサグッサに切り刻んで欲しい。

               

               やけを起こして 自分の心を切り刻んでも 余計わびしくなるだけ。

               

              だったら、辛い思いをしないように

               

              消えてしまいたい。

               

                  雪のように 私の心も 溶けてなくなれば良いのに。

               

               

               

               

              好きな人の腕の中で 眠りたい。

              2018.05.19 Saturday 19:24
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                「 必要なのは対症療法ではなく、予防看護 」

                 

                食事、睡眠、保清、環境管理、感染予防、鼻呼吸、運動とリラクゼーションなどが、

                免疫力維持、そして良い方向へ行くような潜在意識という貯金を作って行くことを基本とする。

                 

                残存機能低下予防。

                つまり、廃用症候群を予防することで、

                医療費の削減にも繋がる。

                これはヘルパーにも出来る領域。

                 

                 

                 自分の夢を叶えたいと真剣に望む者は、

                そのことに関して敏感になり、脳にその情報を収集していく。

                 

                そしてそれに適した人間形成を自分で行ってゆき、

                その分野に関しては優れたものを得て行く。

                この貪欲な努力も必要。

                 

                加えそれを吸収するには、リラックスした状態で、

                脳の中を必要な物と不必要な物に分別し、不必要な物は廃除する。

                脳の中を整理整頓するトレーニングを習慣付ける。

                これは、主に睡眠状態の際に、行われる。

                 

                 睡眠時には、脳に中にあるものを、整理整頓し、体を休め、また、整理整頓し、体を休める。

                これを繰り返している。

                 

                “人は人の手で変わる”

                 

                “認識しようとする意識と習慣性からの直感”

                 

                ” 自分の事を 好きである事 ”

                 

                “後悔はしない” ではなく、後悔をするのも学習。           

                 

                在宅介護を広げる為には、人を許すことも必要な気がします。

                 

                「延命の再確認」

                 

                延命についての答えは分かりませんし、答えは無い気がする。           

                 

                昔話の「姥捨て山」は、酷い昔話は、現実的にみて、仕方ない思い。

                もし、自分がそうなったら、迷惑をかけたくない。

                 

                だからこそ、在宅を支える連携と質と国の財政的な力が必要なんです、

                 

                だれの目的のために、だれが、だれに、どんな言葉をかければ良いのか?

                だれを優先して考えなければならないのか?

                そして、それは、絶対正しいのか?

                だれかを重んじる事ができなければ、延命の問題は解決しない。

                 

                延命の優先順位を問うならば、その基準さえも曖昧である。

                延命の希望は、自分がどうしたいか?それで、良いのかもしれない。

                 

                「苦痛の緩和」「本人の意思」「家族の意思」

                「苦しみ続けても生かしておきたいのか?」

                「苦しまないようにしてあげたいのか?」

                 

                この苦痛の緩和でも、予防看護が重要となる。

                ただし、価値観は 人によって 異なる。

                 

                 しかし、時に思うことがある。

                 

                病院の中で、他の人の苦痛な声を聞きながら、

                スタッフの虐待に等しい耳障りな言動を聞きながら、

                人の命の終わりを告げるアラームの音を聞きながら、

                ガシャガシャと器具の音を聞きながら、

                ベッドの上に、毎日24時間寝かされて、自由がない縛られた時間。

                その時間の過ごし方を、変えてあげるべきだと思う。

                 

                ただ、見えるのは「白い天井」

                ただ聞こえてくるのは「冷たくて怖い話し声」

                体のケアをして貰っていても、物を扱うような冷たい手。

                 

                その場所に温もりは無し。

                言葉すら忘れてしまう。

                自分すら 忘れてしまう。

                逃げることができないベッドの上で、死を迎えるしかない生き地獄。

                 

                冷たい気持ちが伝わってくる肌の感触を受けるしかない。

                それに耐える位ならば、短くても

                残された時間を 穏やかに過ごしたいと思うはず。

                 

                精神的なフローの方が、高い薬剤費よりも効果を得る事が出来る事例を多く見てきた。

                不思議なものです。

                 

                エビデンスから必要性を確信していても、在宅では全く異なる成果を表します。

                 

                家族や在宅連携の愛情で、苦痛は緩和される。

                 

                予防看護、延命、苦痛の緩和など、話がずれているように見えて、同じです。

                 

                延命の過ごし方も、「愛情で有意義なものに変わる」

                私はそれを伝えたい。

                 

                老人が、高カロリー輸液を望まなくても、それは自然の姿であり、

                高カロリー輸液を行うために、ベッドで精神的苦痛を味わうこと。

                それは、命を延ばして、苦痛を味わう時間を延ばしているに等しいと思う。

                 

                延命を望んでも、在宅なら笑うこともあり、お喋りもできる。

                季節を感じることもできる。

                孫や子供の声も聞こえてくる。

                自分の居場所だから。

                精神的に安定できる。苦痛が緩和される。

                 

                それが、在宅なら出来る。

                 

                目に見えるものが 家族だから。

                聞こえてくる声が 家族の声だから。

                触ってくれる手に温もりを感じられるのは 家族だから。

                 

                認知症の方は、一見何も分からないと思いがちですが、とても敏感です。

                心の無い人のケアや声掛けは、直感でわかり、不穏になります。

                 

                愛情の中で、温かい家族愛の中、自分の居場所の中で

                人は残された時間を過ごすことができる。

                 

                安らかに 時間を過ごしたいはず。

                 

                人はこの世に生まれた時、最初に抱かれ、

                この世をさる時、抱かれたまま眠りにつくことが、在宅なら可能になる。

                 

                あなたの好きな人を 優しさに包まれたまま 眠らせて あげたい。

                 

                 

                 

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                辛いって言えないのが、ツラいよな。  最終章  12 ハナミズキ

                2018.05.19 Saturday 17:55
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                  JUGEMテーマ:幸福に生きる

                   

                   

                   最終章 10 続編    ハナミズキ

                   

                   1月の初めに、早速、自己中の私は、勤務希望表を白板に置いた。

                  お正月も、ゴールデンウィークも私が、一人で、緊急電話当番をしている。

                  しかし、今回、ここだけは譲れない。

                   

                  みんなが休みの希望を出す前に、2月14日から2月17日までを、有給希望にした。

                   

                   1月も終わる頃、雪が降りそうな灰色の空さえも、綺麗な青空に思えるような気分で、

                  舞鶴駅近くの駐車場に車を停めた。

                  大きなデパートが2件競い合って道を挟んで並んでいる。

                  私からしてみれば、どちらも代わり映えなく、どちらにも興味がない。

                   

                   ただ、車が停めやすいデパートを選んで、そこで優の誕生日プレゼントの指輪を買うことにした。

                  駐車場は屋上にある。一階は苦手だ。

                  それは、デパートに入った瞬間、強い香水の臭いがするので、好きではない。

                   

                   屋上のエレベーターを使い、3階にある宝石店の中に入った。

                  ダイヤの指輪や婚約結婚を選ぶ、カップルの中、女性一人で選ぶのも、なんとなく気が引けた。

                  普通、女の人はこんな時、男の人と一緒にくるものなんだ。

                  私は、こう言うところが無知である。

                   

                   それにしても、キラキラしている宝石が、なぜかわざとらしく飾られているような嫌悪感を感じる。

                  これを買え!と言っているような圧迫感がある。

                  もっと、自然な感じで置いておけば良いのに、「Give me the money]

                  って言っている気がする。

                  デパートのこの高飛車な感じが苦手だ。

                   

                   でも、今日は我慢する。

                  このお店に入るのは、多分、生涯一度きり位の確率だとおもう。

                   

                   優の誕生日の指輪は、『アメジスト』

                  お店の中に入り、どれにしようかと見て回るのではなく、

                  限定「アメジスト」と書かれた札だけを探した。

                   

                   キョロキョロしていたら、” ここでの教育をみっちり受けたばかりです”的な店員さんから、

                  「お客様 どのようなものをお探しですか?ダイヤですか?誕生石ですか?贈り物ですか?それともご自分へのご褒美ですか?」

                  と聞かれた。

                  私は思わず 「カンペ通りお見事!」と言いたくなったのを我慢した。

                  「アメジストです」

                  それが誕生石だろうと、自分のものだろうと、この人には関係ないことで説明する義務はない。

                  私は 不必要だと思うことを省略してしまうところがある。

                  無駄なことが嫌いなのかもしれない。

                  意味がない行為に 同調するのが 苦手だからかもしれない。

                  「アメジストですか?」

                  もうすぐアメジストの誕生石のシーズンだからか、アメジストコーナーがあった。

                  金銀プラチナで不必要な装飾で覆われているアメジストが多く並んでいる。

                  大きいものは 仰々しく感じる。

                  「俺は これを はめているんですよ」と知らない人にもアピールしているような気がして苦手だ。

                   

                   一番目立たないシンプルな物を探した。

                  優が”あんまり大きいのにするなよ”って言っていたし。

                  「これください」

                  「これですね。サイズはどれ位ですか?」

                  「わかりません。ごめんなさい。あのぅ〜、私の親指より小さくて、私の中指より少し大きめです」

                  「では、お客様の指を見せてください」

                  私は、右手を店員さんに差し出した。

                  「右手の指でよろしいのですね」

                  「ハイ。右指で良いんです」

                  「お相手の方も、右の指でよろしいですか?」

                  「ハイ。右の指です」

                  しつこいなぁ〜、右って言ったら、右なの。

                  だから、お店は嫌いよ。

                  「お相手の方は、右利きですか?」

                  「はい」

                  「利き指によって、少し大きさが異なる場合が多いいので、すみません」

                  「はい」

                  「では、大体、この大きさになります」

                  「はい」

                  「こちらの商品でよろしいですか?」

                  「はい」

                  「保証がございまして・・・・・・」

                  店員は覚えたてのカンペをチラチラ見ながら、書いてある全てのことを読み上げていた。

                  その熱心さは褒める。でも、それが面倒臭い。

                  親切なのかもしれないけれど、ポイントだけにしてほしい。

                   

                  私は、指輪の大きさを確認もせず、現金をバンとレジの所に出して、さっさとデパートを出た。

                  だから、デパートは苦手なのよ。

                  細かく色々聞いてくる。

                  時間の無駄だ。

                   

                   

                   デパートを出ると、高校生達が、舞鶴駅の方へ、流れるように歩いている黒い波が見えた。

                  懐かしい。ここで、よくケンカもしたし、帰りに寄り道をしていた。

                   

                  そういえば、怒ったまま、お店を出てから、指輪を置いてきたのではないかと、心配になった。

                  私は、さっき買った品物があるか、バッグの中を確認した。

                  良かったぁ〜、初めて買った ”  優への誕生日プレゼント ”がある。

                   

                   面白くもない店が並んでいるデパートのエレベーターに乗り、

                  屋上のボタンを押して、真っ直ぐ翔ちゃんの家へ帰った。

                   

                   この指輪を買ったことは、恥ずかしいから、誰にも言わないでおこう。

                  私は、ベッドの引き出しを開けて、指輪が入っている袋を隠そうとした。

                  でも、引き出しには入らず、クローゼットの中の奥にしまい込んだ。

                  誰にも見つからないように、大切にしなきゃ。

                  これは、私の宝物。

                   

                   もうすぐ、優に会える。後、2週間もある。

                  カレンダーに✖をつけているのに、早く来ない。待ち遠しい。

                   

                   カーテンから、冬の空を寂しそうに沈む夕陽が、カーテンから差し込んできた。

                  もう、こんな時間だ。夕飯を作らなきゃ。

                  リビングへ行くと、浩太がお絵描きをしていた。

                  「浩太、上手い。遺伝子には敵わないなぁ」

                  「上手い。美味い。オイチィ」

                  「あっ、そうね。ごめんなさい。浩太は、絵を描くのがお上手です」

                  浩太は、私の話を半分も聞かず、絵を描いていた。

                  「子供が何かに夢中になっている時は、邪魔をしないの」

                  舞から言われた。

                  「その通りだよね。舞、段々お母さんらしくなってきたねぇ」

                  「早川君のお母さんの教訓」

                  「そうなんだ。私なんとなく、近寄り難いのよね。品がよすぎて」

                  「でも、良い人よ」

                  「それはわかるけど、お育ちが違うから」

                  「大丈夫よ。綾の育ちがどうなのかなんて、早川君のお母さんは興味ないんだから」

                  「そうね。そういうことね。うん。良かった」

                  「なんで安心するの?」

                  「うん?確かに」

                  「綾、変なの」

                  舞の言う通りだった。

                  プロポーズされたわけでもない。

                  夏に優のところへ行った後、私の気持ちを確かめるわけでもない。

                  そんなに みんなが言うほど私のことを好きじゃないのかもしれない。

                  だって、私は普通の過程なんだから。

                  私の育ちを、早川邸に合わせる必要もないんだから。

                  でも、なんか気になる。あの人。

                  私の好きなものをよく知っているし、私が嫌いなものも知っている。

                  私が落ち込むと自分のことのように悲しそうな顔になる。

                  私が嬉しいことがあると、ものすごく嬉しそうに笑っている。

                  人から褒められたり、仕事がうまくいくと、自分のことのように喜んで

                  「偉い」と褒めてくれる。

                  私が 具合が悪いと 自分のことのように 心配してくれる。

                  ベチャベチャ質問責めにして話しかけてこない。

                  ただ、静かにタイミングを見計らっているような気もする。

                  早川君は タイミングを見極めるのが、とても上手い。

                  その瞬間の隙を与えてしまったら、私は・・・・・・。

                  それでも いつも そばにいてくれない優を選ぶだろうか。

                  いつも もう 何年間も 側で 支えてくれた早川君に背を向けることができるだろうか。

                   

                  ・・・・・・この迷いが 怖い。

                   

                   夕飯を終え、翔ちゃんの部屋へ顔を出した。

                   

                   最近、唾液が増えてきた為、経管栄養の時に流す水分量と尿量、湿度を見ながら、

                  調整した。水分は多く摂れば良いのではない。他の臓器に負担がかかる。

                  唾液が多いい症状がある患者さんは、不感蒸泄を含めると、平均3ℓ位は水分を失われる。

                   唾液の増量は、ALSの症状なので、仕方ない。

                  唾液が少なくなるのも、異常のサインでもある。

                   

                   痰を出す防御機能として、肺にある毛細血管が、水分を運んで、痰を柔らかくして、

                  喉の方へ送り出す機能を持っている。

                   しかし、この時、肺を正常に動かすために、柔軟性を保っている肺胞や呼吸筋が、

                  硬くなってしまうと、痰を送り出す力がなくなる。

                   水分を取り入れて、痰を柔らかくする機能も低下していると、

                  痰詰まりによる呼吸困難が起こる。

                   

                   痰を出すのを補助するカフアシストという機会は、とても有効であるが、値段が高く、

                  この機械を在宅で使用できる事は、稀であり、それなりに技術と経験を要する。

                   

                   排痰困難時は、吸引、ネブライザー後、少し安定してから、どこに痰が貯留しているかを、

                  聴診して確認後、体位の調整を行う。可能なら、在位になり、顔をうつ伏せにする。

                   

                   在宅で、看護師や理学療法士不在時、どうして良いか、不安ならば、温かいタオルを、

                  仰向けの姿勢のまま、背部に当てるだけでも、有効である。

                   

                   胸部に当てると、呼吸困難時に起こる脈が速くなる状態(頻拍)を、

                  更に悪化させて、酸素を供給できず、呼吸困難、心機能低下へつながる可能性がある。

                   

                   タッピングやスクイージングは、状態を確認し、増悪時、安易に行わない。

                  痰詰まりによる窒息死の可能性がある。

                   

                   唾液が多くなってきたら、吸引を頻回に要求されるようになる。

                  吸引をすると、その刺激で、また、唾液を補充しようと、脳が防御機能を発信する。

                  そして、また、唾液を作る。

                  持続吸引を早目に、使用して、自然に出す方が、在宅では管理しやすい。

                   

                  翔ちゃんも、持続吸引を使用するようになり、吸引の要望も減ってきていた。

                  「翔ちゃん、私、来月の優の誕生日に、優の所へ行ってくるね」

                  翔ちゃんは、私の方をチラリと見て、意思伝達装置のマウスの上に乗せた指を、動かそうとしてやめた。

                  「私、優に誕生日プレゼントを初めて買ったのよ。何だと思う?指輪なの」

                  翔ちゃんは、瞼を1回パチンとして、斜めから見える冬の夜空を見上げていた。

                  「夏の空もいいけど、冬の空は空気が乾いているからか、星が綺麗だね」

                  翔ちゃんは、また、私の方を、チラリと見て、手の届かない遠い星空を見上げた。

                   

                  翔ちゃん 何だか ここを出るのも 寂しい気もするね。

                   

                   

                   

                   

                   ねぇ、沙希。

                  指輪を買ったこと、翔ちゃんに言っちゃった。  

                   

                  翔ちゃんなら、良いよね。

                   

                  翔ちゃんは、私に何か言いたそうだった。

                   

                  多分、「綾が幸せな方を選べば良いよ」かな?

                   

                  翔ちゃんは みんなの思いを 受け止めてくれるから。

                   

                   

                  優に指輪を渡しに行ったら 相模原へ  戻って来ないかもしれないと言っても

                   

                  それでも、翔ちゃんは 瞼をパチンとしてくれるだろうね。

                   

                  優しい表情をして。

                   

                  ありがとう。

                   

                  優のところへ行くときは、

                   

                  優が作った雪だるまに かかっていた趣味の悪い 手袋をはめて行こう。

                   

                  優に会える日が、早くきますように。

                   

                  おやすみ 沙希。 

                   

                   

                  ハナミズキの花言葉 「思いを受け止める」

                   

                  私は 誰の 思いを 受け止めたいと思うのでしょうか。

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                  成し遂げようとする志を 支える愛情は 愛する人を信じることかな。

                  2018.05.19 Saturday 06:35
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                    成し遂げようとする志を 支える愛情は 愛する人を信じることかな。

                     

                     

                     昭和16年 私の祖父は 召集令状を受け取る。

                    その時、彼は 貧しい小さな村に住んでいた。

                     

                     彼がその頃住んでいた村は、山間の裾にあり、人が行き交う道路と村を、

                    大きな河が遮断している僻地だった。

                     

                     この村には、田畑を作れる土地があまりなく、

                    一輪車が通る位の道が所々にあるだけだった。

                     

                     大きな河と渓流があり、子供の頃の記憶の中に、

                    河が流れる「ゴォ〜」と言う音は、怖くもあり安心できる音という印象がある。

                     

                     河と渓流の合間の土がある所に、人が住んでいる。

                    ただ、それくらいの感じだったらしい。

                     

                     だから、ここには誰も住みたくなかった。

                     

                     だから、家も土地もない人達の集落があった。

                     

                     だけど、そこに 人が住める土地がなかった。

                     

                     だから、その土地を 開拓する必要があった。

                     

                     だって、誰もその土地を開拓しても お金がない集落の人からお金を貰えない。

                     

                     そこに住んでいる人達を みんな 貧乏だと邪魔者扱い、

                    奴隷扱いしていた位、蔑んで見ていたから。

                     

                     だから、1円にもならないその土地に、価値もなくお役人は手を付けなかった。

                     

                     だから、彼は 自らそこに住んで、

                     そこに住んでいる集落の人達の暮らしを豊かにしたかった。

                     

                     彼は、沢山の土地や財産を持っていた裕福な家庭で育った。

                    だから、お金がない人の気持ちなど分からなかったのではないかと思う。

                     

                     でも、彼は その土地や山を全て買った。

                    私の勝手な想像でしかないけれど、

                    彼を そこまでさせた人物がいたのではないかと思う。

                     

                     昭和16年 彼は 戦争へ行かなかった。

                    何かの病気だったわけではない。

                    戦争へ行けない理由の欄に「体が弱いから」と書かれていたと祖母は教えてくれた。

                    これが事実かどうか不明。

                    それだけで、戦争へ行かなくて住むのなら、みんな行かなくて済む理由は沢山あったはず。

                    こんな理由で行かなくて済む時代では無かったと思う。

                     

                     もしかしたら、医師にお金を渡したのかもしれない。

                    私は そうだとしても 彼を 尊敬する。

                    戦争へ行って死ぬことよりも、

                    現地に残って生きていた方が辛かったのではないかと思う。

                     

                    「弱虫」としてではなく「強気 成す人」として。

                    きっと、彼は そう自分を信じて やったのだと思う。

                     

                     私は こんな素敵な祖父にあった事がない。

                    私が産まれた時には 彼は亡くなっていたから。

                     

                     私の祖母は 祖父と住んでいた集落の村に 一人で住んでいた。

                    20人は泊まれるこの屋敷の中に たった一人で。

                     

                     この屋敷の思い出として、 

                    子供の頃の記憶の中にあるものは、「嫌な夏休み」の印象が強い。

                     

                     夏休み それは 普通 楽しく 気を休める期間だと思う。

                    けれど、私の親族は違った。

                     まず、夏休みは 祖母に踊りを 披露しなくてはならない。

                    そのため、日頃から親戚の叔母たちと共に、日本舞踊を習っていた。

                    毎年、1曲だけ 叔母たちとみんなで踊る。

                    よって、夏休みに入る前から 一年中 親戚付き合いが深かった。

                     

                    それから、話がかなり擦れますが、面白い経験なので。

                     

                     夏休みの過ごし方

                    孫たちが全員集まり、当番制にされている。

                    食事 掃除 小さな子供の面倒を見る人 魚を獲る人 野菜を獲る人 片ずけを行う人など。

                     

                    一つの当番を 3人から4人で作られた班で行う。

                    何かあれば その班の一番年上の者が 祖母から注意をされる。

                    喧嘩があっても その班の責任者が 祖母から注意される。

                    そして、夕方 4時くらいに その日の反省会が行われる。

                    祖母はその時、「月の沙漠」などの歌を聴きながら、黙って何も口を出さない。

                    祖母が注意するのは、責任者だけだった。

                    班は毎日変わる。

                    その割り当てを決めるのは、一番年上のお兄ちゃんだった。

                    この年がバラバラの中での、日毎に変わる班形成や話し合いで、

                     

                     誰かの責任にして逃げてはいけない。

                    自分がきちんとしなければ、優しい従兄弟たちが怒られる。

                    優しい従兄弟たちは、弱い立場の小さい子たちの責任を負わされる。

                    それでも、誰も文句を言わずに、叱られている。

                    私の代わりに謝ってくれている。

                    他人のことなのに、謝ってくれていた。

                    そこに居たのは「強い人間の姿」であり、

                    そこにあったのは「弱い立場の人を守る」だった気がする。

                     

                    くだらない言い訳を言ってもしょうがない。

                     

                    「出来なかったことに間違いはない」

                    だったらどうすれば良いのか?

                     

                    目標達成、問題解決 リスク軽減などの考え方を教えてもらった。

                     

                    まぁ、今思えば この時の経験は 大きいプラス。

                     

                     そんな夏休み 毎年8月15日に村の盆踊り大会が行われる。

                    この日、私の祖父である彼の慰霊祭が行われていた。

                     

                     彼は、戦争へ行かず、山を切り開いて 大きなトンネルを作り 

                    僻地だったその村と大きな町が行き来できるように、車が通れる道を作り、

                    お米や野菜を作れるように、田畑を整地した。

                     

                     小学校と中学校を作り、戦争で家族をなくした孤児たちを自分の子供にして、

                    みんな同じように育てた。

                    この人達の子供も夏休み 私たちと一緒に 過ごしていました。

                     

                    収入の少ない家庭には、それなりの仕事をしてもらい、報酬を渡した。

                     

                    家畜の飼育が出来るような環境にして、各家に自分の馬を育てて貰い報酬を払った。

                     

                     大きな河のところに 石で橋を作った。

                    この橋は、失敗だったと思う。

                    かなり怖かった。

                    雨の日や豪雨の翌日渡るのは、ある意味自殺に等しいと思える程オンボロだった。

                     

                     まぁ、とは言っても、こんな感じで 偉業を成し遂げた祖父の慰霊祭は、

                    私の高校位までは行われていた気がする。

                     

                     小さい時、盆踊り大会でお菓子が貰えるとはしゃいでいたら

                    「今日は貴方のおじいちゃんのお祭りなんだから、

                     そんなことではしゃがないのよ。貴方は格式が高いお家なんだから。良い子にしていなさい」

                    そう、あの村に住んでいる怖いおばさんが、私の横に並んで冷たく言った。

                    言っている言葉の内容は、とても尊敬されているように聞こえたけれど、

                    その時の冷たい声のトーンで、私はフリーズしてしまった。

                    そして、怖いおばさんを背に、私の横にいた親戚の叔母さんが

                    「お菓子をもらって帰ろうね」と小さく言った。

                     

                     子供の頃のこの光景が ずっと 引っ掛かっていた。

                    どうして 自分の父親の追悼式なのに、みんな逃げるように コソコソとしていたのか。

                     

                     戦争へ行かなかった父を 批判し軽蔑する人も 多かったに違いない。

                    私の親族は もしかしたら いや 多分 

                    学校で 地域で 嫌味を沢山言われて 育ったのだろう。

                    父親の存在を自慢せず 身を隠すように過ごしてきた親族の暗い部分が伺える。

                    きっと かなり苦労して育ったのだろう。

                     

                     祖母は 私の想像をはるかに超える苦労があったと思われる。

                    しかし、夫を支え、子供を育て 地域に デンと居座った揺るぎない凛とした精神が

                    村を豊かに変えたような気がする。

                     

                     愛するものを信じて 成し遂げた結果ではなく 成し遂げようとする志を

                    強かに支えた妻の愛情に 「凄い!」と感動した。

                    今 この歳になって それを実感する。

                    妻は 夫のファンでいれば きっと 円満な家庭になると思う。

                     

                     

                     今 こうして 暮らしていけていることが 当たり前になり、

                    ありがたいという感謝の気持ちを 忘れてしまったのか。

                     

                     生き地獄を味わっても 自分がやりたいと思うことを 貫いた祖父。

                    戦争へ行かなかったことを 祖父は 十分反省しています。

                     

                    祖父は「つぐない」の気持ちを 残してくれました。

                     

                     当たり前のことを 当たり前だと思わず

                    「つぐない」と「感謝」

                     

                     そうすれば 争いや攻撃することもなく 

                    見返りを求めずに 人を思いやれるのに。

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

                     

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                    成し遂げようとする志を 支える愛情は 愛する人を信じることかな。

                    2018.05.19 Saturday 06:31
                    0

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                      JUGEMテーマ:幸福に生きる

                       

                       成し遂げようとする志を 支える愛情は 愛する人を信じることかな。

                       

                       

                       昭和16年 私の祖父は 召集令状を受け取る。

                      その時、彼は 貧しい小さな村に住んでいた。

                       

                       彼がその頃住んでいた村は、山間の裾にあり、人が行き交う道路と村を、

                      大きな河が遮断している僻地だった。

                       

                       この村には、田畑を作れる土地があまりなく、

                      一輪車が通る位の道が所々にあるだけだった。

                       

                       大きな河と渓流があり、子供の頃の記憶の中に、

                      河が流れる「ゴォ〜」と言う音は、怖くもあり安心できる音という印象がある。

                       

                       河と渓流の合間の土がある所に、人が住んでいる。

                      ただ、それくらいの感じだったらしい。

                       

                       だから、ここには誰も住みたくなかった。

                       

                       だから、家も土地もない人達の集落があった。

                       

                       だけど、そこに 人が住める土地がなかった。

                       

                       だから、その土地を 開拓する必要があった。

                       

                       だって、誰もその土地を開拓しても お金がない集落の人からお金を貰えない。

                       

                       そこに住んでいる人達を みんな 貧乏だと邪魔者扱い、

                      奴隷扱いしていた位、蔑んで見ていたから。

                       

                       だから、1円にもならないその土地に、価値もなくお役人は手を付けなかった。

                       

                       だから、彼は 自らそこに住んで、

                       そこに住んでいる集落の人達の暮らしを豊かにしたかった。

                       

                       彼は、沢山の土地や財産を持っていた裕福な家庭で育った。

                      だから、お金がない人の気持ちなど分からなかったのではないかと思う。

                       

                       でも、彼は その土地や山を全て買った。

                      私の勝手な想像でしかないけれど、

                      彼を そこまでさせた人物がいたのではないかと思う。

                       

                       昭和16年 彼は 戦争へ行かなかった。

                      何かの病気だったわけではない。

                      戦争へ行けない理由の欄に「体が弱いから」と書かれていたと祖母は教えてくれた。

                      これが事実かどうか不明。

                      それだけで、戦争へ行かなくて住むのなら、みんな行かなくて済む理由は沢山あったはず。

                      こんな理由で行かなくて済む時代では無かったと思う。

                       

                       もしかしたら、医師にお金を渡したのかもしれない。

                      私は そうだとしても 彼を 尊敬する。

                      戦争へ行って死ぬことよりも、

                      現地に残って生きていた方が辛かったのではないかと思う。

                       

                      「弱虫」としてではなく「強気 成す人」として。

                      きっと、彼は そう自分を信じて やったのだと思う。

                       

                       私は こんな素敵な祖父にあった事がない。

                      私が産まれた時には 彼は亡くなっていたから。

                       

                       私の祖母は 祖父と住んでいた集落の村に 一人で住んでいた。

                      20人は泊まれるこの屋敷の中に たった一人で。

                       

                       この屋敷の思い出として、 

                      子供の頃の記憶の中にあるものは、「嫌な夏休み」の印象が強い。

                       

                       夏休み それは 普通 楽しく 気を休める期間だと思う。

                      けれど、私の親族は違った。

                       まず、夏休みは 祖母に踊りを 披露しなくてはならない。

                      そのため、日頃から親戚の叔母たちと共に、日本舞踊を習っていた。

                      毎年、1曲だけ 叔母たちとみんなで踊る。

                      よって、夏休みに入る前から 一年中 親戚付き合いが深かった。

                       

                      それから、話がかなり擦れますが、面白い経験なので。

                       

                       夏休みの過ごし方

                      孫たちが全員集まり、当番制にされている。

                      食事 掃除 小さな子供の面倒を見る人 魚を獲る人 野菜を獲る人 片ずけを行う人など。

                       

                      一つの当番を 3人から4人で作られた班で行う。

                      何かあれば その班の一番年上の者が 祖母から注意をされる。

                      喧嘩があっても その班の責任者が 祖母から注意される。

                      そして、夕方 4時くらいに その日の反省会が行われる。

                      祖母はその時、「月の沙漠」などの歌を聴きながら、黙って何も口を出さない。

                      祖母が注意するのは、責任者だけだった。

                      班は毎日変わる。

                      その割り当てを決めるのは、一番年上のお兄ちゃんだった。

                      この年がバラバラの中での、日毎に変わる班形成や話し合いで、

                       

                       誰かの責任にして逃げてはいけない。

                      自分がきちんとしなければ、優しい従兄弟たちが怒られる。

                      優しい従兄弟たちは、弱い立場の小さい子たちの責任を負わされる。

                      それでも、誰も文句を言わずに、叱られている。

                      私の代わりに謝ってくれている。

                      他人のことなのに、謝ってくれていた。

                      そこに居たのは「強い人間の姿」であり、

                      そこにあったのは「弱い立場の人を守る」だった気がする。

                       

                      くだらない言い訳を言ってもしょうがない。

                       

                      「出来なかったことに間違いはない」

                      だったらどうすれば良いのか?

                       

                      目標達成、問題解決 リスク軽減などの考え方を教えてもらった。

                       

                      まぁ、今思えば この時の経験は 大きいプラス。

                       

                       そんな夏休み 毎年8月15日に村の盆踊り大会が行われる。

                      この日、私の祖父である彼の慰霊祭が行われていた。

                       

                       彼は、戦争へ行かず、山を切り開いて 大きなトンネルを作り 

                      僻地だったその村と大きな町が行き来できるように、車が通れる道を作り、

                      お米や野菜を作れるように、田畑を整地した。

                       

                       小学校と中学校を作り、戦争で家族をなくした孤児たちを自分の子供にして、

                      みんな同じように育てた。

                      この人達の子供も夏休み 私たちと一緒に 過ごしていました。

                       

                      収入の少ない家庭には、それなりの仕事をしてもらい、報酬を渡した。

                       

                      家畜の飼育が出来るような環境にして、各家に自分の馬を育てて貰い報酬を払った。

                       

                       大きな河のところに 石で橋を作った。

                      この橋は、失敗だったと思う。

                      かなり怖かった。

                      雨の日や豪雨の翌日渡るのは、ある意味自殺に等しいと思える程オンボロだった。

                       

                       まぁ、とは言っても、こんな感じで 偉業を成し遂げた祖父の慰霊祭は、

                      私の高校位までは行われていた気がする。

                       

                       小さい時、盆踊り大会でお菓子が貰えるとはしゃいでいたら

                      「今日は貴方のおじいちゃんのお祭りなんだから、

                       そんなことではしゃがないのよ。貴方は格式が高いお家なんだから。良い子にしていなさい」

                      そう、あの村に住んでいる怖いおばさんが、私の横に並んで冷たく言った。

                      言っている言葉の内容は、とても尊敬されているように聞こえたけれど、

                      その時の冷たい声のトーンで、私はフリーズしてしまった。

                      そして、怖いおばさんを背に、私の横にいた親戚の叔母さんが

                      「お菓子をもらって帰ろうね」と小さく言った。

                       

                       子供の頃のこの光景が ずっと 引っ掛かっていた。

                      どうして 自分の父親の追悼式なのに、みんな逃げるように コソコソとしていたのか。

                       

                       戦争へ行かなかった父を 批判し軽蔑する人も 多かったに違いない。

                      私の親族は もしかしたら いや 多分 

                      学校で 地域で 嫌味を沢山言われて 育ったのだろう。

                      父親の存在を自慢せず 身を隠すように過ごしてきた親族の暗い部分が伺える。

                      きっと かなり苦労して育ったのだろう。

                       

                       祖母は 私の想像をはるかに超える苦労があったと思われる。

                      しかし、夫を支え、子供を育て 地域に デンと居座った揺るぎない凛とした精神が

                      村を豊かに変えたような気がする。

                       

                       愛するものを信じて 成し遂げた結果ではなく 成し遂げようとする志を

                      強かに支えた妻の愛情に 「凄い!」と感動した。

                      今 この歳になって それを実感する。

                      妻は 夫のファンでいれば きっと 円満な家庭になると思う。

                       

                       

                       今 こうして 暮らしていけていることが 当たり前になり、

                      ありがたいという感謝の気持ちを 忘れてしまったのか。

                       

                       生き地獄を味わっても 自分がやりたいと思うことを 貫いた祖父。

                      戦争へ行かなかったことを 祖父は 十分反省しています。

                       

                      祖父は「つぐない」の気持ちを 残してくれました。

                       

                       当たり前のことを 当たり前だと思わず

                      「つぐない」と「感謝」

                       

                       そうすれば 争いもなく 人を思いやれるのに。

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

                       

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